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つづき
そっと衛の腹の上にまたがり、頬に人差し指を伸ばす。
「ああ……うとうとしてた」
衛の声をきいて、どっと安堵がわきあがる。さっきまでの背中を押されているような焦りは消え去った――衛の言で。
「よかった」
ゆるく開かれた目蓋の向こうで瞳が濡れている。
「衛、どこにもいかない?」
「どうした?俺はどこにもいかないよ」
「……ん」
衛は俺の腰に手を回して膝の上にかかえるように位置をかえた。
「どこにも行かない。俺達は大丈夫だ。そうだろ?」
「……うん」
大丈夫。そう言ってくれた、あの日もそう言ってくれた。そうだね大丈夫だ。膝の上に抱えられた姿勢のまま、両頬を手のひらで覆い、衛の目蓋を親指で閉じる。
「なに?」
「黙ってて、じっとしてて」
最初に鼻のあたまに口づけをおとす。高くて綺麗な鼻。たまにつまんで悪戯する鼻。料理の香りを見極める衛の大事な武器。舌先で鼻梁をなぞると、まわされた腕にぎゅっと力がこもる。
「まだじっとしてて」
つぎは額。聡明さの証のような平らな額。ここに横皺がはいるようになったとき、どんな男になっているのだろう。それを見たい、見られる時まで一緒にいたい。その気持ちが伝わるように、ゆっくり何度も口づける。
じれったい刺激に焦れたように俺の背中をまさぐる衛。浴衣越しでもわかる大きな熱い手。
「次は目。ちゃんとつぶって」
右の目蓋、左の目蓋。キラキラ光ったり、色っぽく濡れたり、暗く沈んだり、優しく笑ったり。たくさんの顔をくれる瞳。目頭から目尻に唇をすべらせる。優しく唇で挟み込むように目蓋を感じると、色を滲ませる黒い目が見えるようだ。
「俺が欲しい?」
「さ……とる」
「衛の顔、まだ全部終わってない」
手首と肘の間をぐっと握られて、頬に添えた手が鎖骨あたりにストンと落ちる。夕日のオレンジ色に染まった肌と自分の手は同じ色。
左の頬と右の頬。何度も重ねるキス。唇だけでは名残おしくて、少しだけ舌先で触れてみる。ソファに隣り合って座っている時、突然ここにキスをしたくなる。でも照れ臭いからできなくて……だから今までの分を今してしまおう。
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