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12年……重ねた時間の目指す先 8
「うま……久しぶりに旨い」
同感だ。すこぶる旨い。味は濃くなく薄くもなく。飾らない味だが体が喜ぶ、そんな味。
「これを食べて美味しいと思えるなら、まだ俺達大丈夫なんじゃないか?」
俺の言葉に一瞬動きを止めたギイは俺の顔を見た。そんな風に真剣に見返されたのは随分前のことだから、ちょっとだけドキっとした。
「お前の言わんとすることはわかる。そうだな、まだ大丈夫かもな」
1本目のワインはあっという間に空いてしまった。ポテトチップをつまみに部屋で飲んでも、そうそう沢山は飲めないが、美味しい料理があれば酒もすすむ。ボトルと6種のおつまみ盛合せを追加して、ようやく少し落ち着いた。
「ここでキイは「ハル君」なんだな」
キイちゃんを目で追っているのだろう。ギイは視線を揺らせながらボソっと言った。
「客に「ハル君」言われてるから人気があるんだろう。あのルックスなら守備範囲は広いだろうし。暗い所でばかり見ていたせいかな、随分明るくなったと思わないか?」
「それは思った。前よりずっと素直で明るい、それに年相応の可愛さを取り戻しているよね」
「歳相応か」
ボトルは王子様一号がサービスしてくれた。追加の盛合せの皿は二号が運んできてくれた。
第三号と四号は柱のせいでまだ確認できていない。
「俺……沈み込んで浮き上がれないんだ」
ギイはようやく話す気になったらしい。空いたグラスにワインを注いでやりながらつま先をつついた。
「言って楽になれ、聞いてやるから。何を聞いても俺はギイの傍にいるから安心しろ」
向かい側の男は、泣き笑いのような笑顔をうかべて「ありがとう」と言った。
キリキリする心臓をなだめながらギイの言葉を待つ。安心しろ、俺がお前を切り捨てられないのだから。
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