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12年……重ねた時間の目指す先 12
「俺は最初に逢ったあの日から、胸の中に儀をずっと忍ばせてきた。俺じゃない男と寝る姿を見守りながらずっと傍にいた。それを続けていると「寂しい」がどんどん降り積もる。
そろそろそれにも疲れてきた。
もし儀が俺を選んでくれたら、約束するよ。
俺が儀を捨てることは絶対しない。ただし浮気は別だ、誰かを抱いた後だと知ってその男と寝られるほど、俺の神経は図太くはない。
だから俺を選ぶってことは腹を括って覚悟をするってことだ。そんな儀になってくれたなら俺はずっと儀の傍にいるだろう、離れることはない」
そこまで言ってしまってからやはり後悔した。言ってしまったことは取り消すこてはできないし。
キイちゃんの姿とこの旨い料理に背中をおされて溜め込んだものを吐き出した。それでいいじゃないか。後悔以上に俺はスッキリしていた。
「悪かったな、俺は帰るよ。足りなかった分は出しておいてくれ」
「ちょっと……待てよ」
「待たない。わかるだろ?俺は強くないんだよ。言ってしまってスッキリしたけど後悔だってある。
儀と一緒にいるのは寂しいが沢山だったが、居なくなると思ったら、寂しいより「悲しい」が大きい。
さよなら、儀」
儀の顔を見ることはできなかった。自分で言った「悲しい」の単語は思った以上に心を抉った。
ゆっくり歩いて出口に向かう。忙しそうなキイちゃんが手を振って笑ってくれた。手を振りながら、今日ここにきてよかったと思えた。自分は変化を望んでいたからこそ、言えたんだ。
店をでて歩き出す。さすがに帰りは地下鉄に乗ろう。2駅分歩くには満腹すぎるし、気力がない。沢山の人間であふれる地下を思うと、それも嫌になった。一人ぼっちをより実感しそうで、怖い。
タクシーに乗り運転手に行き先を告げる。車の振動に身を任せ、もうすこし遠い場所に家があったらよかったのにな。そんなことを考えた。
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