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12年……重ねた時間の目指す先 14

「うわ、なんでこの部屋こんなに寒いんだよ」 「儀……」 「ちょっと待てって言ったのに、スタスタ帰りやがって」 「なんで戻ってきた。お前の服は全部まとめたから。ついでにそれ持って帰ってくれ」 儀は勢いよく俺の前に近づいた。両肩をがっしり握られて動きを封じられてしまう。俺ができるのは視線を逸らせることしかない。 「ヒロ。こっちを見ろ」 引っ込んだはずの涙が溢れそうになって深呼吸を繰り返すはめになった。このタイミングでヒロは反則だ。 「さっきはちょっとびっくりして、固まっているうちに居なくなるし。いいか、俺の言いたいことを言うから。ちゃんと聞いてくれ。ヒロ?聞いてる?こっち見ろよ」 「……うん」 「俺は、お前がいなくなると困る。それはお前しか俺のことを気にしてくれていないからだし、ずっと長く一緒にいるのはヒロしかいないからだ。 俺のことを好きでいてくれたのは知らなかったし、知ろうともしていなかったことは認める。 でも、ヒロが俺から離れていくという現実には耐えられそうにない。これはヒロの気持ちとは別なのか、一緒だけど俺が認めたくないのか、その結論はまだでていないんだけど。 前向きに検討するし、真剣に考える」 「真剣に考えて恋愛するなんてバカの言うことだ」 「違う、真剣に考えるのは恋愛の事じゃなくてヒロのことだ。俺にとってヒロがどういう存在なのかをちゃんと考える。だから答えがでるまで、俺は男と寝ることはやめる。それに『bright』にも行かない。 でもここにはたまに来てもいいだろう? 考える相手を目の前にしていれば答えが早く出る気がするんだ」 「……バカだろ……お前」 堪えていたのにまたポロっと涙がこぼれた。 儀は何もいわずに微笑みながら俺の顔を見ていた。ここで安易に抱きしめられたりしたら、俺は本気で儀を殴っていただろう。 だから、ただ俺を見詰める儀の「考える」が真剣なんだと信じられた。 「……今日から少し料理に取り組もうと思うんだ。買い物にいかなくちゃいけない」 「一緒にいく」 「……喰えるものができる可能性は低い」 「二人で頑張れば、それなりのものができるかもしれないぞ?」 俺の頭をポンポンと撫でた後、儀は言った。 「そんなに時間はかけないつもりだから、ちょっとの間だけ待ってろよ」 「俺様だな」 「ヒロのおかげで浮上したんだよ。さあ行こうか、買い物するんだろ?」 儀の指がのびてきて俺の腕を掴んだ。階段から引っ張り上げた時のように、ふわりと笑って。 俺達変われるかもしれないな。 俺達まだ大丈夫かもしれないな。 それが現実になることを信じて、儀の答えを待とう。儀を信じてみよう……12年前のあの日と同じように。 END

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