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つづき

「僕の弟は4歳下です。小学生高学年の微妙な時期に自分の兄がゲイだって知ることになったせいか、僕達の間には距離ができちゃいました。仲のいい兄弟だったんですけどね」 「う~~ん。何と言っていいやらですが、たぶん最初はびっくりして固まったのだと思います。そして理解できないことを悩んだかもしれませんね」 「理解?」 「自分と違う事や自分が絶対できないと思うことを理解はできません。理さんと飯塚さんを見て気持ちが悪いとは思えない。勿論ハルさんもね。でも僕がミネさんやハルさんに対して恋ができるかと言われると、やっぱりそれは無いのです。たぶん理解できないってことですよ。 ただ家族となれば、必死に理解しようと考えるのかなって。でも無理で、そのうまくいかない気持ちが距離になって現れるのかもしれません。 仲がいい兄弟だったのでしょう?理解できなくていいんだよって言ってあげたらどうでしょうか。ハルさんがお兄さんなんだし」 「……そうかな」 「兄弟ですからね。言葉はちゃんと伝わります」  ええっと……こんなときは何を観ればいいかな。僕はソファから立ち上がって全開にならない扉に体をねじ込み、目当てのDVDを取り出した。 「ハルさん、ぴったりの映画を観ましょう。言葉があればきちんと伝わる、たとえ言葉がなくても通じている。それが実感できる物語ですよ」 「タイトルはなんですか?トアさんのおすすめに間違いがないですからね」  ハルさんはソファの上で膝をかかえて背もたれに深く沈んだ。どうやらこの姿勢がハルさんの鑑賞スタイルらしい。DVDをセットして電気を消す。音響と真っ暗で映画館気分です。  心優しい兄と、兄が大好きな弟と家族の物語。『ギルバート・グレイブ』のタイトルが画面にクレジットされた。  僕達は黙って映画を見る。ハルさんの心になにか一つコトリと落ちてくれればいい。僕はそう願って画面を静かに見続けた。

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