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つづき
「俊己は命日の日、夢にでてくる。三郎のところに顔をだしているかは知らない。お互い言った事がないからな。たぶん自分にだけに逢いに来ているのなら気まずいという思いが二人ともあるからだ。
だからこれを三郎に言った事がないから、実巳も黙っておけ」
「親友のところに顔だしてるなら、当然弟のところにいくでしょ?
俺だったらSABURO全員にいくし、おじさんもオヤジももちろんかあちゃんも……そう考えるとどんどん広がっていくな。すずさんにも挨拶したいし、そうなればハル父と広美さんにも。うわ、けっこう大変だな。もしかして盆とか彼岸ってあちらの人は大忙しなのかな?」
「聞いたことが無いからそれは知らん」
「今度聞いておいてよ」
「嫌だよ。自分で聞け、くだらん事を聞いている時間はないの。なんせ1年に1回の限られた短い時間だしな。でも言いたいことや、聞きたいこと、それを伝えたいのに、どれから話せばいいのかよくわからなくなってしまう」
「へえ」
「話をちゃんとする前に「せっかくきたのに充は愛想なしだな~つまんないの。じゃあなっ!」って消えちゃうんだよ。単に話したい事がいっぱいで何も言えないだけなのにな。
お前の伯父さんは短気だよ」
おじさんは頬杖をつきながら、ジョッキについた水滴をすくいあげ、また指を下側に滑らせてまた戻ることを繰り返す。
『 実巳の伯父さんは』そう言った。「俊己」って名前を言葉にしたら、泣いてしまうんじゃないか。そんなことが頭に浮かんで、心に刺さる。
たぶんそれは当たりで、おじさんは意味のない仕草で必死にこみ上げるものを押しこめている。
だから俺は何も言わない。二人の間に横たわる俊己伯父さんの存在に想いを馳せながら黙って静かに佇む。
言葉を使わないことでおじさんの心に寄り添えるかもしれない……そんな気がして。
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