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december.7.2015 定休日には散髪を  ハル編

「よお~ハル」 「どうも、お久しぶりです」 鏡の向こう側からニンマリしているのは勿論タケさん。しげしげと僕の顔を見た後、髪をワシャワシャして、あちこち引っ張り、毛の流れを変える。そして僕を見て真剣な顔をしたと思えば、ニンマリの企んでる顔に変わる。 忙しい人だ。これでヘタクソ美容部員だったらいいとこナシですが、腕には文句のつけようがない。だから僕はされるがままです。 「変じゃ~ないけどさ。もうちょいハルらしさを出そうって気にならんのかね、君のカット役の人は」 「変じゃないなら許容範囲です」 「これ女だろ、切ったの」 「ええ……です」 ヤレヤレと呟いてタケさんはおもむろに髪をひっぱりあげ、ザクっとハサミをいれた。うわ!いきなりですか!どんな風にするよ~もなしですか。説明も要望もなしなのですね。まあ、予想どおりですが。 「飯塚さんに施したカットぐらいのクオリティーをお願いします」 「生意気言うな、ハルのくせに。俺が手を抜くはずがないだろう」 こういう自信満々に言うあたりが、なんだかミネさんを彷彿させます。「なに?俺が不味いもん作るとおもってんの?」って言ったりするのととっても似てませんか?似ているのですよ。 「なんかいい事あったのか?」 「いい事ですか?」 「そう、なんかな、僕大丈夫です!みたいなオーラがでてる」 カットだけじゃなく占いもできるとか? 「昔よく遊びに行っていた店の常連さんと偶然逢いました」 「へえ~そんで焼きボックイに火が付いたとか?」 「それって、ヤキぼっ栗に火がついた、じゃないのですか?」 「ブブブウウウ、不正解!木杭でボックイ。一度炭になった木は簡単に火がつくだろ?だから昔関係のあった男女が再燃!あららら~のコトワザ。 ハルの場合は「昔の男か」うししし」 「ぼっくりってボっと燃え上がった栗だと思っていました。炭になった木のことだったんですか。 栗って焼いたらはじけるイメージがあって、危険ですよ~だめですよ~って意味なのかと」 クイっと頭を真っ直ぐの位置に変えられた。 ニンマリ顔はもう飽きたのか、真剣なタケさんと鏡ごしに見つめ合っております。 「ハル君。それも間違いなのだよ。ぼっくりは栗のことを言うのではない。松ぼっくりはじゃあ、どう説明する?」 「ボっとなった松の栗?ええ~松ぼっくりって子供の頃拾って図画工作に使ったりした記憶はありますが」 「ぼっくりっていうのはね「ふぐり」が変化したものだよ」 「ふぐり?」 聞いたことがあるような……なんだっけ……なんだ?でもあまり良い印象ではない。 ええと……ええと……!!思い出した! 大学でネコが好きすぎる女子が熱弁をふるっていた。それはネコは可愛くて可愛くて、もう「ふぐり」すら可愛い。ふぐり画像だって沢山UPされているのよ!とか何とか。ようは男子の大事な袋様です。 「え”!!」 「はい、正解」 「そんな下世話な名前だったのですか!」 「そういうこと、そしてハル少年は松の金玉袋さんを嬉々として拾い集め、工作に使うために弄り倒し、貼り付けたり、切断したりしちゃってたわけ。いや~んサディスティック・ハルって呼んじゃおうか?」 あああ。よもやこんな事でいじられるとは。ちょっとしたコトワザ勘違いうろ覚えが、こんな攻撃を受ける羽目になるとは! 「普通にハルでいいです!」 チョキチョキ手は動いていますが、真剣モードの顔はもうすでにいじめっ子に変わっています。もうこうなったら気が済むまで付き合うしかない。諦めの境地、それはサトリの境地。 「今クリスマス時期だしさ、リースにもいっぱいついてるだろ?松ボックリ様が。それにチューしているかわいいハルの写真を撮って飾りたい。クリスマスカードに使いたい! それ有りだよな?」 これは不味い。非常にマズイ。 助けを求めようと飯塚さんの方を見たら、なにやら理お姉さまと真剣にお話し中だ。これは邪魔をしてはいけません。きっと理さんのこととか、赤ちゃんの話しをしているのに、松ぼっくりお稲荷様でヘルプ!なんて言えるはずがない。

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