229 / 271

つづき

『皆の子供よ』  紗江さんの言葉を聞いたときの気持ちが甦ってくる。あの時は本当に嬉しかった。兄という存在、そして理の血をひく新しい命が自分の傍に存在することの意味を噛みしめた。  理の姉であり、兄さんの奥さんである紗江さん。そこに母親というもう一つの紗江さんが加わる。本当に生まれて来るんだという実感がジワジワと湧き上がってきた。皆の子供。  そう考えたら一気に兄さんの気持ちに同調してしまう。兄さんの言うとおりだ。女の子はどんなに周囲が守ってやろうとしても予期せぬ危険がふりかかるかもしれない。  不細工な彼氏?論外だ。ヤンキーもヤクザも当たり前に絶対駄目だ。頭が悪いのもいただけない。自己評価が高い小物も最悪だ。 「衛君?」  紗江さんは俺をじっと見ていたらしい。その見透かすような視線は母親ではなく、理姉の顔。 「意外と顔にでやすいのね?かな~りくだらない事考えてたでしょう?「俺も男の子がいいです!」って顔に描いてあるわ。 まったく男の人ってどうしてこう意気地なしなのかしらね」  返す言葉がない。 「男の子だって、女の子だって、この世の中で守っていくのは大変。都会だから田舎だからって言っていられない時代でしょ?将来的な希望だってどこまで持たせてあげられるのか。そう考えたら落ち込んだりもする。だから私達は出来る限りのことをしていく、きっとこれ以外の答えはないと思うの」 「はい」 「不細工な彼氏が心配だっていうなら、衛君が頻繁にここに遊びにきてくれれば問題解決よ」 「どうしてですか?」 「それだけの男前を頻繁に見ていれば、それが基準になるでしょ?刷り込みってあるじゃない。現にうちの家系は身長が高いのよ。理は母方の血をひっぱっちゃったのか175cmくらいだけど。私は170近いし、父は180超え。叔父さん達も皆180以上ある。だから私、小さい頃から男の人は背が高くなるものだって思っていたの。小さいオジサンを見かけると、まだ背が伸びていない人なんだって思い込んでいてね。中学生、高校生になって、成長の止まる男子の姿を見て、大きくならないの?ってショックを受けたっていうバカみたいな経験がある。 だから衛君がその男前顔でさんざん可愛がったら不細工君には見向きもしなくなるかもね。わからないけど」  紗江さんはケラケラ笑った。 「トアや北川も連れてこなくちゃいけませんね。理が一番いいじゃないですか。女性に人気が高いのは理みたいな男ですから。」 「それ惚気?」 「え?」 「まあ、不細工じゃないと思うけど。弟の顔がいいとか、いい男だって思ったことがないのよね。私にしてみれば衛君みたいな男前がなんでまたサトなんだろうって考えちゃう。 由樹に逢っていなかったら、衛君を転ばせていたかもしれない」 「転ばせる?」 「ん~自分になびかないって嘆き悲しむのは趣味じゃないの。相手が自分によろめくように色々作戦練ったりオシャレしたり女子度をアピールするのは性にあわない。よろめく?甘いわ、足をひっかけて転ばせて、どうしましたか?って手をさしのべて起こしてあげるのよ」  怖い。紗江さんなら簡単に転ばされて、引っ張り上げられて「大丈夫?」なんて言われたら、あれよあれよのうちに……。確実にそうなってしまうだろう想像が簡単にできる。現にあの兄さんだって、ここまで追いかけてきていきなりプロポーズしたくらいなんだし。

ともだちにシェアしよう!