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december.9.2015 ミネと衛のなれそめ

「男っぷりあがってんじゃないの?俺とトアだけ仲間外れ?」 ちょっと悔しくなって、そんなことを言ってみる。 サトルはちょっとクラシックなスタイルと濡れたような黒髪に色が変わっている。スタイルにマッチした濡れ烏的な色目が妙にいい。しかもエロい度が増している気がする。 やや相好を崩してサトルを見詰めている鉄仮面に言ってやる。 「サトルの兄ちゃん、どんなつもりであの頭にしたのかな。格好いいけどさ、それ以上にエロいだろ、あれは飯塚的にいいわけ?」 「エロい?」 「ああ。男にビクともしない俺だって、あれはなんかちょっとモヤっとする色気。要はエロいって思うぐらいだから、そっち系の方にもズドンなんじゃないの? ついでにいうと女子にもズキュンなんじゃないの?」 「兄さんめ」 「衛君のお手並み拝見ですねって事だろうな。ちゃんと繋ぎ止めておきなさい的な」 怒りだすかと思いきや、妙に納得顔の鉄仮面。わかんね~なに?もしかしてサトルの実家には秘密が一杯あって、髪を切ると啓示を与えてもらえるとか? 「俺一人だけのことじゃない。皆の幸せがかかっているからな」 全然意味わかんね。ただその腹を括りました感の顔がさ、悔しいけど男前なわけよ。自分以外の存在を得ると、人は変わるのかな、そんなふうに思うと自分のことが何となくつまらなく感じたり。 「女と無気力に付き合っていた高校生の頃の飯塚と今は全然違うな」 飯塚はしかめっ面でこっちを見た。蒸し返すなっていう心情アリアリの顔が笑える。 「村崎は誰が横にいても楽しそうに見えたがな」 しかめっ面をするのは俺の番だ。人の好意を受け取ることには慣れていた。ちょっと面白くて気さくで軽め、でもあんまり群れない。そんな風に回りは俺を見ていたけど、一番波風が立たない方法がそれだっただけの事。言いたいことは言うけど、軽さを装えば真意が軽減される。「村崎が言うならしゃーないな、お前に言われても深刻に悩めねえ~つぅの」と笑い飛ばす相手に投げかけた言葉は全部本音だったりした。良く言えば「軽妙」悪く言えば「軽い」その間を綱渡りして本音を吐き出してきた。 勉強でもスポーツでも趣味でもなんでもいい。人に認められようがケナされようが、自分で決めてそれをどうにかしてやろうって足掻いている人間を見ると安心した。 その点で言えば、飯塚はどこにも属していなかった。 「好きです。つきあってくだい」そう告白したタイミングで飯塚の隣が空いていれば「彼女」になれる。 だが、飯塚自身はいきなり好きだといわれた相手のことを何も知らないし、言っちゃあ悪いが知ろうともしない。断る理由がないというだけの承諾だからヒドイっちゃひどい。 告白された時に言う言葉は「たぶん3日で俺のこと嫌いになるよ」だった。(当時俺は鉄仮面じゃなく、嫌いになるよ王子と心の中で呼んでいた) 私を好きになってください攻撃を平然と受け止めるが好きにならない。不味い弁当は突き返す。行きたくない場所にはいかないし、本を読まない女は嫌いだと平気で言う。ヘタに男前なだけに女子の評価が徐々に変わっていったのはしょうがないだろう。「顔がいいからってエラそうに」「優しくない」 正直にしていると「優しくない」と言われるのはどうにも納得できなかったから、貧乏クジひいちゃって可哀そうに、なんて思っていた。

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