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つづき
あんまり話すような間柄じゃなかった俺達が友達になったきっかけは「不味い弁当」だった。何人目か数えるのも面倒な彼女が作ったらしい弁当を前に腕組みする飯塚を見たのは音楽室だった。何でそこに俺が行ったかというと、廊下ですれ違った先生に無理やり教本を持って行けと命令されたからで、選択が習字の俺に音楽室は無縁だった。仕方がなく覗いた音楽室にポツンといたのが飯塚だったというわけだ。
「あら、飯塚。一人で弁当?」
「一緒に食べるのを断った。ここは一人になる絶好の場所だ」
弁当一緒に食うのを断るその真意はなに?そんなことを考えながらグランドピアノの上に押し付けられた教本をドサリと置いた。
台っぽいからここに置いたけど、ピアノって楽器だよね?机の上のほうがよかったかな?なんて思ったけど、思っただけ。
そのまま音楽室を出ようとしたら後ろから声をかけられた。
「村崎、父親はシェフだったな」
唐突すぎる問いかけに「はぁ?」な俺、しばし音楽室で見つめ合う。からかったりの様子がないことに安心するも、弁当を前に心なしか元気のない飯塚が気になる。
「そうだけど?」
「良い店だな。ほっとする味だし、たまに寄らせてもらっている」
ヨラセテモラッテイル?高校生の使う言葉かよ~~王子様!
「悪いがこの弁当の中身、食べてみてくれないか」
「なんで?お前が作ってもらった弁当だろ?」
「だからだ」
「ダカラだって、なんなのダって話よ、まったく。へえ~見た目は悪くない」
「ああ、色目はな」
「んじゃ、この唐揚げいただきます」
んぐ、むぎゅ。噛んでわかるこの感じ。咀嚼をやめた俺にティッシュが差し出された。
「飲みこむな」
はい王子。ぺっぺっぺ。
「うわ~これ冷凍食品だろ。もも肉の脂のブニュッと感!あの黄色い脂肪全部抱き込んで揚げてみました~な気持ち悪さ。味が濃い。俺は嫌い」
「だな」
「もう食わないよ。可愛く作ってるけどさ。なんていうの?見た目重視だなこれは。彩は栄養のバランスに繋がるけど、食材が新鮮であることは大事だ。旬のもの何にもはいってないじゃんか、この弁当。ひとつ入れたいよな。スナップエンドウのガーリックオイルあえとか。
あとさ、冷めて食うもんだから、冷たくても美味しいものを食べさせたいじゃないの。このカップのグラタンだけど、冷たいグラタン旨い?ポテサラのほうがいいじゃん。フライドオニオンかけるとか、ベーコンビッツとローストしたクルミを混ぜ込むと旨い。キュウリは好きじゃないからポテサラにはいれたくない。
こういう弁当より、水筒にビシソワーズ入れてきた方がポイントたかくね?」
キョトンとしたあと飯塚が盛大に笑った。今まで見たことが無い心からの笑顔。あ~なんだこいつ、ちゃんとした人間なんじゃないかって安心した瞬間。
その日から今日まで俺達はずっと友達だ。後日俺が本気のビシソワーズを水筒に入れて持って行ったことが決定打になった。
レシピをしつこく聞き、メモしながら味わう。その顔はキラキラと輝いていた。
その時思ったんだよね。リサーチ不足なんじゃないの?女子の皆さん。身の丈に合わない女子力アピールは飯塚相手には墓穴だよねってさ。
それから高校を卒業するまで、これは!と思える一皿ができたら必ず飯塚に食べさせた。そんな俺達も30を目前にしていて、今は同じチームだったりする。
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