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つづき
そして恋愛にやる気のなかった飯塚がどっぷり恋ってやつにはまっている(相手は男だけど)
憎たらしいくらい似合っている髪型を頬杖しながら見上げた。
「お前、昔より今のほうがずっといい。それってサトルのおかげ?」
「だな」
即答ですか!飯塚さん!
「どこで、どう変わったんだよ、単なる同僚からドキがムネムネ君に」
「さあ、どこだろうな。思い返せばどれも全部タイミングに思える。理は自然に入り込んできた。
いや違うな、そこにいた。気が付いたら居るのが当たり前で、いないと不自然さを覚えるほどだった。
同僚にそんな風に、ましてや男だろ?」
「そうだよね、んで、どうしたの?」
「理は思い悩んだらしいが、俺は悩む事をやめた」
「はあ?」
「惚れた腫れたは愚かしいと正直思っていたところがあった。でも生まれて初めて浮かれたりワクワクしたり意味もなく言葉一つが気になったり、気に病んだりっていう作用がすべて理が原因だった。それって男が女に対する気持ちだろ?俺は女に今までそんなことにならなくて、でもやることはできるからゲイではないだろうと思っていたが、理が自分の中に存在していることを自覚したとき、性別は気にならなかった。理が女でも同じように惹かれただろうし。
だから悩まなかった。理がいれば問題ないってことだよ」
飯塚さん、けっこうな告白ですよ。聞いていて恥ずかしいデス。
「理がいいんだ。認めてしまえば単純なことだ。複雑なのはその先なんだよ。好きです、俺も好きです。そうやって始まった時が一番楽しいかもしれない。そこから一緒に居るために、関係を継続していくために沢山の事が立ちふさがる。
自分にとって味方であった家族も恋愛がからんだ瞬間から一番の厄介に変わったりもする。
悩んだり、迷ったり落ち込むこともある。でも思うんだよ」
「なんて?」
「理と一緒に居る為なら何だってできるし、何だってできそうな気がする」
「はっ?なに言ってんの?」
目の前にいるのは見慣れた顔だというのに、やけにキラキラしていて思わずぼ~と見詰めたくなるような有難い顔で本気の男前の顔だった。
「村崎だって、絶対にそういう相手がこの世の中にいるはずだ。逢うべくして逢うそんな存在がな。料理をしている時、仕事に向き合う姿勢、お前は文句なしに格好いい。
まずい弁当作るより、水筒にビシソワーズ詰めてくるような相手がきっと現れる。
のんびり待ってろ」
飯塚はそう言って、俺の少々伸びた髪をわしゃわしゃした。
互いに少しばかり照れくさく、でもなんだか懐かしく。それで、やっぱり友達はいいなと思い至る。こいつと友達でよかった。
12月にしては穏やかな、なんてことのない中休み。
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