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december.11.2015 すずさんのちょっとした出逢い

「年末ってほんと嫌になる。」  おもわず出た独り言。詰まりまくる案件に加え、年末年始の前倒し。いつにもまして仕事がたてこんでいる。この時期は毎年そうだから文句の一つや二つ出たってしょうがない。 「盆と正月、GW、期末。全部嫌になる。そう考えると1年の間、俺達はけっこう嫌になっているってことだ。」 「そういわれれば、そうよね。」 「ガランとした家に帰る身じゃなくてよかったよ」 「私だって帰ってくるの、けっこう遅いよ?」 「直美が帰っていなくてもいいんだ。男の一人暮らしの部屋とここは違うよ。全然違う。 さてと、いってきます」  章吾は少しだけ微笑んだあと、仕事用の顔になって出掛けた。言わんとしている事はわかる。帰ってきて電気がついていなくても、ここは人が住んでいる空気に覆われていて「あ~帰ってきた」そう感じるから。  一人のほうが楽だと思うことも確かにあるけれど、一緒にいるほうが楽しい事は間違いない。忙しさにかまけて、けっこう放っておいているのに、あんなふうに言ってくれる。  章吾は優しい男だと改めて思いながら、少し反省した。

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