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つづき
「ちょっと聞こえちゃったんで」
実巳君はセットのデザートのパンケーキじゃない小さなココットを彼女にだした。
「夜のコースのデザートのクリームブリュレです。予備をまわしちゃいます。お誕生日のプレゼントにしてはあまりにささやかですが、どうぞ」
「ええ~!!」
でた……人タラシの実巳君。こういうことできるのに、何故彼女がいないの?不思議すぎる!
「私にはくれないの?実巳君」
「あげませ~~ん。皆にあげたらプレゼントにならないでしょ?おめでとうの権利はお誕生日の人だけですから」
実巳君はビシっと人差し指を顔の前にたてて横に揺らせた。私にはフンって顔をしたくせに、彼女にはニッコリ。人タラシの上塗りじゃないの、もう!
その後はSABUROスタッフ全員が「おめでとうございます」を言いにきたから、彼女の顔は真っ赤に染まって嬉しそうな笑顔がこぼれていた。喜んでいる人の顔はいい、それにかわいい。
「いい男さん達にチヤホヤされるのって気持ちいいでしょ?これをエネルギーにして夜は旦那さんの奥さんに戻ってあげてくださいね」
「なにいわはるんですか~!はずかし」
「なんだか可愛いから失礼を承知で言っちゃいました。それじゃお先です」
彼女は笑顔で手を振ってくれた。
店をでてオフィスに向かって歩きながら思い浮かべたのは章吾の顔。時間がない、忙しいと愚痴ってばかりの私の話しを聞いてくれる。時間がないと文句をいうなら、時間をつくればいい、私はそう正木に言っているのに、自分が実践できていなかった。
彼女のように、出張についていったっていい。スケジュールを合せて出張先で待ち合わせをすることだってできる。すれ違ってばかりだとションボリするくらいなら、自分でなんとかすればいい。
ああ!!まだまだね!私!
たまにはお弁当でもつくってみようかな。忙しくてもいつでも食べられるから便利だし。
もちろん二つつくって章吾に渡そう。きっと朝からびっくりするに決まってる!
章吾の顔を想像して頬がゆるむ自分が可愛くなった。そうね、時に可愛い所をみせておかないと、飽きられちゃうわ!さて、お弁当には何をいれようかしら?
なんだか午後の仕事がうまくいくような気がして、スキップでもしたい気分。カウンターに隣合わせた彼女に感謝しなくっちゃ。
ぶーたれていないで、章吾に笑顔を見せてあげよう。きっと、とびきりの笑顔が返ってくるはず。そうして12月を乗り切ればいい。いつもより楽しい12月になるかもね!
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