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december.13.2015 理、セクシャリティーに悩む
「俺ってゲイだったのかな?」
飲み込んだワインが逆流する寸前で事なきを得た。まったく唐突に何を言いだす。呆れて横を見れば、理の顔は真剣だった。「考えすぎて弱る」とは紗江さんの言葉だが、心当たりがあるから初期の段階で悩みは潰してしまいたい。
「なんでそんな風に考えた?」
営業スキルにおいては相手が「はい」か「いいえ」で答えられる質問をする。そして徐々に「はい」しか言えないトークに切り替える。肯定の積み重ねが思考をプラスにしていく刷り込みだ。
でも悩み事でそれをすると、変な自己完結に終わり何も解決しないということになりかねないから「はい」「いいえ」以外の答えが必要になる質問をするのがセオリーだ。相手が理の場合はなおさらに。
「付き合う、その経験値はある。もちろんSEXだってした。ドキドキしたことだってあるし楽しかったこともある。かわいいと思える程度には好きだったと思う。でも比較すると全然違う」
「比較?何と何を?」
「元カノと衛」
普段ならそんなことは恥ずかしいと言い訳をして言わない。さらっと答えた理の顔は赤くもないし、いたって冷静だ。なるほど、自己分析においては恥ずかしいは脇に置いておけるのか。
「衛と実家にいくのは全然嫌じゃない、でも昔それで喧嘩になったことがある。俳優の誰誰が格好いいわ、そう言われてもヘエ~だけだったのに、衛がジュレミー・アイアンズが好きだ、なんて言うとムッキ~あんなオッサンかよ!ってムカっとするし結局気になって調べたりする。
別に無理して料理しなくてもいいやって感じだった。俺だって出来ないから別に何とも思わないし、彼女の手料理をそんなに望んでいなかった。でも、今は衛の料理以外正直食べたくない。あ、ミネは別だけど。
だからさ、普通に考えると男が女の人にしてもらいたい、とかやってほしい、みたいな事を俺は望んでいなかったということになる。しかし男の衛にそれを思うということは、実はゲイだったのかな。そう考えたら何となくそんな気がしている」
理はワインをチビっと飲んで俺の顔を見た。一気に眉間に皺がよる。
「なんだよ!人が真剣に話してるのに、そんなボハ~とした顔して。びっちり6日間働いた疲れか?なんで顔が赤いんだよ、もうまわったのか?」
熱烈な告白と同様の事をペラペラと言い募ったは誰だ!嬉しくなって顔くらい赤くなるのが当然だ。
「顔が赤いのは理のせいだ。過去のどの恋愛よりも俺が一番だってことを言ってるんだぞ?それを聞いたら当然浮かれるじゃないか。今俺は盛大に浮かれている!だからこれは「赤面」だ!」
「えっ!」
理はクッションを掴むと自分の顔に押し付けた。ようやく気が付いたか、かわいいから許す。しかも耳が真っ赤だ。明日は休みだし少し夜更かししてもいいだろう。もう少し理とこの議題について話合うのも悪くない。
「じゃあ、ゲイかどうかの検証をしよう。パソコン持ってくる。ボトルの中身デキャンタに移しておいてくれないか、すぐもどるから」
理はモゾモゾとクッションの中から這い出してきた。それを確かめてから壁際のローチェストの上にあるパソコンを持ち上げる。延長コードがいるな。引きだしのなかからコードを取り出しテーブルに戻れば、ちゃんとワインは移動していた。壁面から電源をひっぱりパソコンを立ち上げる。
「検証って?」
「エロ動画をみる」
「お前なに言ってんの?」
ポカンとした理を横目にキーボードを叩いて目当てのサイトに飛んだ。ゲイ、ストレート、世界各国の動画が見られるサイトだ。もちろん無料。変な窓が開いたりしない所。
選んだのは男女の絡みで5分程度のものだ。再生するとわざとらしい喘ぎ声が部屋中に響いた。
「音でかいって!」
「少し落とすか」
ディープキス、フェラシーン、挿入後の体位が2パターン。5分だからそれほど長いものではない。
「久しぶりにみた」
「感想は?」
「最後に見たのは友達の家で大学の頃だったな。まあ普通に興奮というか、若者だったし」
「で?今は?」
「別に……というか何も思わないあたりが不安。おまけにショック。やっぱり俺ゲイだったのかな?正明は違うと思いますよって言ってくれたんだけど。このびくともしない下半身が答えなんじゃないのか?」
「ちなみに俺もウンともスンともだ」
「まじかよ……俺達二人、なんだか不味いことになってない?」
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