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そのまたつづき
「イベントを大事にしたいなら、日程を前倒しすればいいだけですよ!アホみたいにシティーホテルに泊まるとか、豪勢なディナーとプレゼントなんて面倒くさいですよね。
今日みたいなクリスマス、僕は楽しいです。そして来年、クリスマスBOXの試作するときに「そうだったな、ピクルスの話したよな。二人でクリスマスだったな」なんて言いながら思い出すんです。ずっとそっちのほうが素敵じゃないですか?
僕がミネさんの役にたって、それがお客さんの喜ぶ顔につながる。それが一番嬉しいじゃないですか」
「ハル……」
「あ、それとクリスマスですから。日頃の感謝をこめて、どうぞ」
用意していた包みをミネさんに渡す。綺麗にラッピングされた箱を壊れ物みたいに手にとるのが子供みたいで可愛い。
「あけていい?」
「もちろんです」
包装紙を破らないように丁寧に剥がしていく。はがした後きちんと畳む姿に頬が緩む。
箱の中身はルクルーゼのマグカップ。フルーツグリーンの色が店のカラーのオリーブグリーンに似ていたから一目でこれだと決めた。口コミレビューでも「口当たりがいい」って書いてあったのも好材料。
「店で使っているマグ、チップしていますよね。唇切ったら大変です。料理人が口元に傷をつくるなんてよくありませんからね」
「ハル……」
クリスマスにプレゼントを貰ったことはいっぱいあっただろうし、もっと高価なものばかりだったはずだ。
理さんと飯塚さんにプレゼントを渡した時もこんな反応だった。予想していないプレゼントは驚きを与えるみたい。そんな相手の表情を見ているだけで、プレゼントした甲斐がある。
「俺……何にも用意してなくって」
「いいですってば、美味しい賄いのお礼です」
「あのさあ、ハル」
「はい?」
「来年も俺と一緒にクリスマスしよっか。その時は俺がプレゼントするからさ」
ちょっと照れくさそうな顔。嬉しさをかくしれない素振り。大事そうに両手でマグカップを握る姿。これは盛大に不味い……です。踏ん張らないと、踏みとどまれ自分。
「はい、プレゼント……楽しみにしています」
僕は自分を裏切ってしまった。ミネさんの笑顔に抵抗できるはずがない。
これから始まるのは楽しいことより苦しいことが多くなる。それはわかっているけれど やっぱり僕は、この人の笑顔を見続けたい。
そう……思っちゃったんです。
僕はずっとずっと長い間、見て視ぬふりしていた鍋の蓋をあけちゃいました。
とうとう…ね。
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