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つづき
頭をゴシゴシ拭きながら時間を確認しようとスマホを覗くと着信のランプが光っている。誰だろ。メールの送り主は……儀。件名『開けろ。めしだ』本文なし。届いた時間は10分前。
すぐに電話を折り返す。開けろってことはここまで来たって事か?
「もしもし?」
『悪い、寝てたか?』
俺様なメールと打って変わって「悪い」なんて言われて面食らう。
「いや、さっき起きてシャワー浴びてたから気が付かなかった」
『鍵あけておいてくれよ。今から上がる』
「わかった」
話しながら玄関に向かいロックを外す。俺が気持ちを打ち明けたあと、本当に儀は店にこなくなった。よく届いていたどうでもいい内容のメールの数が減り、俺の部屋に顔をだす機会が少しだけ増えた。日曜の昼ごろ、あとは平日の日付の変わった頃が週に1回くらい。
平日は缶ビールを1缶くらい飲んで寝るだけだ。会話はあるが、どうでもいい事や俺にはさっぱりわからない仕事の話しだったりで、結局俺達の関係は何も進んでいなかった。
11月も残り10日、そんなタイミングの告白から1ケ月を超えた最近は変化がなくてもいいと思い始めている。
自分の店で姿をみなければ外で何をしてようと関係ない。知らないことは無かったことに簡単にできる。儀の遊ぶ様を見なければ友達を続けることができるかもしれない。このひと月でそんな風に考えることも多い。簡単に言うと、俺は諦め始めていた。
アメリカ製のとんでもなく暖かい裏起毛のパーカーとスエットを身に着けた。タイマーをセットして寝たおかげで部屋の中は温かい。冷蔵庫を確認したら6本パックの500ml缶のビールが残っていた。
足りないとホザクなら買に行かせればいい。ビールを二本とりだしテーブルに置くと玄関の開く音がした。
「よう」
「そっちは?いいクリスマスだったか?」
儀は顔をしかめる。この表情をどうとったらいいのかさっぱりだ。
「仕事に決まってるだろ?年の瀬だぞ?家族持ちを解放してやった皺寄せをかぶるはめになった。若い奴らはソワソワしていて見ているだけで効率が下がるから、そいつらも貸しにして帰したからな。休日出勤、残業、残業。昨日は一日ゴロゴロして過ごした、そして今日ってわけ」
「そうか、お疲れさんだな。わかるだろうけど、気疲れして今朝は寝坊だ」
「何も食ってないだろ?」
ああ、食べていない。俺は儀本人より、部屋に入ってきた瞬間からのいい香りに釘づけだ。 絶対旨いに違いない何かの香り。 儀はワインを3本買ってきたらしく、包みとボトルをテーブルに並べた。
「グラスを出すか。ビールは缶で飲む。ヒロは?」
「俺もそうする」
ソファに並んで座ると思ったのに、儀は向かい側に座った。なんだかそれが気恥ずかしくて俺は何も言えないままビールをゴクゴク飲んだ。休みの日、起き抜けのビールは旨い。ただしけっこう回る。
「つまみになるようなものが何もないんだ」
「いや、俺買ってきたんだよ。ちょっとキイに無理言っちゃったかな」
「キイちゃん?」
「あの店の開店直後に行ってテイクアウトできないかって無茶なお願いをした。ヒロも俺もクリスマスのせいで仕事疲れだから身体にいいもの食べたいんだって言ったんだ。
いつもあるパニーニの他にサラダと煮込みハンバーグを用意してくれた」
「うわ、うまそ!」
「だろ?最初は怖い顔して俺を睨んだ男がシェフだった。キイが何か言ったら俺を見て、キイを見て、頭をポンポンだ。そして出てきたのがこの料理」
「へえ~」
「眼鏡の男は気にしてない振りをしつつ俺をマークしていたけど敵意はなかった。この間席に案内してくれた男いただろ?今回は笑ってくれたぞ。
キイが俺のこと説明したのかな。それに料理が二人分だったから、それもよかったのかもしれない。
やっぱり疲れたあとは旨いメシだ。あったかいうちに食おうぜ」
キイちゃんは大事にされているようだし、そのおかげでこんな旨いものが食べられる。今度逢うことがあったらお礼を言わなくちゃ。
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