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つづき

「仕事先の人、すっごい甥っこを可愛がっているんだ。俊明が結婚して子供ができれば甥っ子や姪っ子が僕には存在するかもしれない。でも僕は息子も娘も持てないから、俊明は一生叔父さんにはなれない。それはすまないと思う」  俊明は勢いよく立ち上がると、冷蔵庫をすごい勢いで開けてビールを両手に握った。僕の前にドスンと座り込むとビールの缶を押し付けてくる。素直に受け取って栓を開けた。 「むしゃくしゃする。兄ちゃんのそのゴメンナサイみたいなのが苛々する」 「え?」 「いっぱい考えた、でもわかんないもんはしゃーないだろ?突然変異とか病気っていうなら治るかもしれないけど違うじゃないか。それに兄ちゃんだけじゃなくて世界中にそういう人がいて、おまけに大昔からいる。ってことはさ、兄ちゃんが謝ることじゃないって思うんだわ。 だからスマナイとかゴメンとかムカツクわけ、わかる?」 「……俊明」 「ちゃっちゃと蕎麦作れるし、俺より断然顔いいし。色々知ってるし。それでいいじゃないか、堂々としてればいいじゃんか。 少なくとも家族の中にいるときくらいはそうしてろよ。長男だ~兄貴だ~って顔してればいい」  トアさん……本当ですね。僕は自分のことをちゃんと話していないくせに、弟が僕を避けていると思っていました。相手を思いやるからこそ出来てしまう距離、それを見ない振りをしていました。避けていたのは僕のほうだった。 「ありがとう。ちゃんと話し……しないままで……ゴメンな」   堪えきれずにポロっと零れた涙。俊明はそれを見ないふりをしてリモコンを適当にいじる。 「俊明?」 「あ~?なに?」  わざとらしい、ぶっきらぼう。 「日本酒散々飲んでもういらないかもしれないけど、ビールもう少し飲もうか」 「冷蔵庫にタップリ冷えてるし」 「魚肉ソーセージのケチャップ炒め作ったら食べるか?」 「……食べる」  なんだかスッキリして僕は立ち上がった。空になったザルを持ってキッチンに行く。冷蔵庫に顔を突っ込んでビールとソーセージを掴んだら後ろから俊明の声が聞こえた。 「兄ちゃん、あけましておめでとう」  溢れそうになる気持ちを必死に飲み込む。震えないように、いつも通りの声がでるように。 「おう、あけましておめでとう!ちゃっちゃとソーセージ作るからな」  兄らしく、長男らしく堂々と。少しは偉そうに聞こえたかな?  だらしなくソファにもたれた俊明がニヤリとして親指をたてた。だから僕も同じようにビシっと親指をたてる。  2016年が明けたばかりのこの日。僕はまた「にいちゃん」に戻ることができました。

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