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<7月> 逃げていく週末めし

「ふう」  たった今切れたスマホをポケットにつっこむと、ため息がこぼれた。悪い子ではないが、畳み掛け作戦に関してはなかなかに押しが強い。あれよあれよと展開されていて、断るタイミングを逸した俺。残念ながら、逃げは打てそうにない。 「あ~あ」   廊下の壁にもたれかかったが、グズグズもしていられない。さっさと事務作業を片付けなくては待ち合わせに間に合わなくなる。 「なんだ、憂鬱そうだな」  飯塚が廊下の向こうから歩いてくる。どうして俺はコイツみたいにバッサリと断れないのだろう。その極意をわけてほしい。 「策にはめられたような気がしてさ」  それだけでわかったのかニヤリとする男前。 「飯塚は経費精算?」 「そ、不備があるって総務に呼ばれた。不備っていうから漏れがあったのかと出向いたら領収が一枚はがれてますよ~って。そんぐらい糊で貼れって話」  飯塚君、わかっていないね。それは君を総務に呼ぶための口実なんだよ。君の男前の顔を拝むとエネルギーが湧くらしい(給湯室で盛り上がる女子社員の会話がソースだから間違いない) 「いいじゃないか。俺にはそんなお呼びはかかりません」  真面目な顔をした飯塚は何を言ってるんだと言わんばかりの口調で言った。 「お前はつまらないミスはしないだろう」  ええ、仕事においてはね。領収だってビタっと糊を塗りこんで貼り付けますよ。でも昔から女性の押しには対抗できない。たぶん姉ちゃんのせいだ、絶対だ。 「もうすぐ5:00になるぞ。さくさく片付けたほうがいいんじゃないのか?」  時計をみると確かにそんな時間になっていた。いっそうのこと急な残業でも入ってくれないだろうか。 「素晴らしい手料理のお返しがしたい気分なんだ。溜めている仕事があったら俺がかわりにやってやる。遠慮なく言えよ」  オフィスのドアに手をのばしていた飯塚は振り返った。 「あのなあ……そんな礼はいらないよ。俺が好きで料理しているんだし。それで?つきあうのか?」 「え?何を?」 「里崎さん」 「あ、うう」 「まあ、武本のそのノリだと今回も3ケ月未満ってところだな」 「もっと短くてもいいかも……しれない」 「彼女もかわいそうに」 「俺のほうがかわいそうだ!」  飯塚は完全に振り返り腕を組みながら憎たらしい笑顔で言った。 「つきあってる間は里崎さんにメシを食わせてもらえよ。いつ呼び出しがかかるかわからない相手に作る気がしないし「彼女」に悪い。 料理上手だといいな、里崎さん」  はっはっはと黄門さまみたいに高笑いしながらヤツはオフィスに入っていった。  可愛いいい子だ。見た目はかなりいいし悪い子ではない。でも……それだけだったりする。あああ、俺の週末メシが!!    結局、急な残業はやってきてくれなかったから、その後里崎さんに向かい合うハメに……なった。

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