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<7月> 正明、由樹とご対面

「よし兄?どうしたの?」   向かいに座る理さんが嬉しそうに電話を握っている。へえ。飯塚さん以外の人間にもこんな顔するんだ。 「ああ?お粥なんか誰でも作れるよね?うう、まあそうだけど。薬飲まないんでしょ?ああ、わかる。ああ、でも……。よし兄マスターしてないの?んん……。今外なんで、かけなおすよ」   電話を切った理さんはため息をついた。よし兄って理さんのお兄さん? 「理さん、お兄さんいたんですか」 「あ、悪いな電話でちゃって」 「いえ、いいですけど」  僕たちは土曜のランチを楽しんでいた。このところすっかりコンビニに顔をみせなくなった理さん。フルでいれていた土曜のシフトが無駄になったので、かわりに平日がっつり働いて週末をゆるいシフトに変えた。そうでもしないと、この人に逢えなくなったのだ。 「なんかあったんですか?」 「んん~姉ちゃんがごねてるみたい」   理さんは変わらず穏やかだ。飯塚さんと毎週一緒にいたのに、それがなくなった。それなのに切羽詰った感はまったくなく、余裕すら感じる。  対する飯塚さんは以前より弁当を買って帰るようになったし、いつも眉間にしわが寄っている。でもね~僕がおせっかい焼くようなことじゃないし、理さんがいれば問題ない。飯塚さんは僕のことを知らないから傍観中。 「ごねてる?」 「俺のお粥が食いたいとかなんとか」  理さんはここで説明を始めた。お粥を上手に作れるようになった理由とお姉さんとお義兄のこと。 「じゃあ、帰ったほうがよくないですか?まだ土曜だし、明日帰ってこれるでしょ」 「そうだな……正明」 「なんですか?」 「明日シフトは?」 「入れてないですよ。映画見ようかと思って」 「それ却下……俺と一緒にこい」  あれよあれよと事が進み、僕は美容室のイスに座っている。 「はい、失礼します、腕いれてくれる?」  なに?僕は髪を切られるの?ビニールのケープに腕を入れながら鏡を見る。鏡越しに見えるのは僕の頭をまっすぐにするためにさりげなく支えている人。この方が理さんの義兄さんらしい。迂闊に近づいたら痛い目に合いそうな雰囲気ですね。 「若造君、名前は?」 「まさはる……です。」 「ん、じゃあ、ハル。僕のイメージでやっちゃっていい?」 「ヤルって」 「安心しろ。サトだって喰ってないのに、お前みたいなお子様いただくほど困ってないって」  さり気なく恐ろしいことを言われました……。 「さすがよし兄~!」 「どお?この若造の本質をさらけだしましたって感じにしてみた」   俺のクシャっとしたくせ毛風の髪は刈り込まれ、長めに残されたトップ部分はパーマがかけられていた。 「正明みたいな顔だったら俺がしたい髪形だ、これ」 「たぶん、いけるよ、サトでも」 「ほんと?無職になったらしようかな」  どうでもいいですが、当事者不在の会話やめてもらえますか。 「サト。どこでコレみつけてきたの?」 「みつけたっていうか、コンビニのバイト君」 「ほお」  お義兄さん、どうでもいいですが理さんに触りすぎじゃないですか?けっこうねばっこい触りっぷりですけど? 「バレンタインにチョコくれた」 「チョコ?」  お義兄さんの視線が怖い……です。 「俺と友達になってくれたんだ。正明に救われてね、感謝してる」  理さん!おかしくないですか?なんでこんな子供みたいな甘えんぼモードなんですか?素直に何でも言っちゃってるし! 「なに顔しかめてんだ、ハル」  勝手にハル呼ばわりしているし。 「サト?さっき無職になったらって言ってたけど、そういう予定があるわけ?」  そういえば、そんなこと言ってたような気がする。 「姉ちゃんの様子みてくる!」  理さんはそう言い残して出て行ってしまった。さてと……この怖い人と二人きりにされて、僕にどうしろというの! 「そんな迷惑そうな顔しなくてもいいのに」  よし兄さん?おにいさん?どっちも違う気がする。何ヨシなんだろ、この人の名前。 「ところで、ハル。お前サトが好きなのか?」 「好きっと言いますか……振られてるんですけどね。ほっておけないというか、僕が纏わりついているというか。 片思いが突き抜けて違うものになったというか。 本気で理さんの幸せを願っている……な感じです」 「じゃあ、僕といっしょだね」 「はあ?」 「サトを好きすぎる男ナンバーワン。超かわいい弟」 「それ奥さん知ってるんですか?微妙な感じに聞こえますけど」 「知ってる知ってる、それ以上に僕の紗江に対する愛の大きさをわかってくれてるからね」  太刀打ちできない。ペースに飲まれてしまう……主導権を握ることを諦めた。 「それで?幸せを願うって言ったけど、サトの幸せってなに?」 「それは本人から聞いてくださいよ」   後頭部をスコーンと叩かれた。 「イタ!なんすか!」 「ハル、君はまだまだだね。サトが何のために君を連れてきたと思ってるの」 「??散髪……ですよね?」  スコーン!!(本日二発目、けっこう暴力的だ!) 「何って、伝書鳩に決まってるだろうが。自分で言うのが照れくさいから、ハルを連れてきたの」 「そんなことヒトっ言も理さん言ってませんでした!」 「お、いっちょう前に反抗するんだ~」 「反抗じゃないですよ!事実を言ったまでです」  スコーン!!!(……脱力) 「サトのことは俺のほうがよくわかってるの。その俺が言うんだから間違いないの。 ということで吐け」  洗いざらい吐きました……いえ、吐かされました。 「その飯塚って男、どんなヤツなの?」 「よく知りませんよ、見た目は超男前ですけどね。中身はわかりません」 「ふむ」 「でも理さんが好きになるぐらいだから、悪い人じゃないと思いますよ。笑うと優しい顔になるし」 「笑うのか」 「僕らコンビニ君には眉間にしわよった顔しかみせませんけどね。理さんには柔らかいですよ」 「ハルはけっこう観察力があるな。決めた」  今度は何を? 「スパイ決定。サトは3週間に1度髪切りにここにくるから、ハルもついてきなさい。その時報告すること」 「何をってわかりきってますが、いちおう聞きます、報告って?」 「もちろん、その男前の近況にきまってるだろ」 「コンビニ買い物風景以外報告できませんよ?」 「それで十分だ、決まり」 「……はい」  どうやって抵抗しろというのだ、この人に。 「じゃあ依頼主になるので、すいませんが名前を教えてくれませんか?僕なんて呼べば?」 「僕は由樹なんだけど。両親と紗江が由樹ってよぶから、それはダメ。サトがよし兄って言ってるからそれもダメ。それ以外ならいいよ」 「わかりました、じゃあタケさんで」 「……は?」 「婿養子で使い慣れてない苗字、あえて使わせていただきます」  せめてもの俺の反抗だ!ざまあみやがれ。  スコーン!!!! 「上等だ。ハル、お前面白いな。気に入った」  チュッ……ほっぺにキスをされました。理さんに渡したクランキーがきっかけで僕の世界が広がってしまった……気がシマス

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