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<12月> オードブル大作戦ー1

 こんにちは、覚えていますか?俺は村崎です。晴れて飯塚と「同僚」になりました!今日は日曜日だけど年内最後のお休みをとることにした。  12月はイベントと宴会シーズンまっ盛りな、それはもう恐ろしい月だ。23日が祝日になるという暴挙が近年重なり、クリスマスはイブで十分なのにイブイブなる日が増えて、日本だけクリスマスは3日になったのだ。  稼ぎ時であるから仕方がない。この季節に暇だと店が潰れるってことなので、忙しいのはありがたいことだったりする。でも嫌いだ!12月が一番嫌いだ! 「ダークサイドの12月、飯塚のおかげでダースベイダーにならなくてすみそう」  飯塚は、おとといリーマン生活を終えた。俺にとっては歓迎一色!ありがたや~だ。 「予約はどんな具合よ」 「入ってはいるけど満タンでもないな。うちのキャパだと会社関係の大口はこなせないし。細かく件数を積み上げるしか方法がないよね」 「向こうからくるのを待つ以外方法ないのか?」 「でもさ、基本待ち商売だぜ?あげく水物~水商売」  鉄仮面は何やら考えている様子だ。でもこういうのは有難いと思う。なんでも一人で考えて、それに対してイイも悪いも誰も言ってくれない。自分でGOして結果次第って、けっこうストレスだったりする。  誰かが考えたことに意見が言えたり、俺が何か提案して話し合うなんて今まで望んでも手に入らなかったものだった。  飯塚はカンもいいし直感も働く。新メニューやプランの思いつきは結構いい線いっているのだ。 「武本呼んでもいいか?」 「あの週末のオトモダチ君?いいけど、なんで?」 「あいつは考えることが得意だから。12月に入っているからレスポンスがあるか微妙だが、何も手を打たないよりはいいだろう」 「はあ?」 「あのなあ、今まで村崎が一人でやってたことを俺と二人でやってどーすんのって話だ。 生産性を2倍にしてプラマイゼロだろ?」 「……お前欲張りだな」 「なに言ってんだ!2倍じゃ足りないくらいだぞ!」  そんなこんなでタケモト君なる人物に逢えることになりました。 「こんにちは」  へええ。これが噂のタケモト君ですか。優しそうな面差しで、これは女にモテるだろう。背だって低くないし、身に着けているものもセンスがいい。鉄仮面とは真逆のタイプ。ふんわり柔らかそう。 「悪いな、休みに」 「悪いと思ってるなら呼び出すな」  ほほおお。単純なやさしさあふれる男子じゃないのね。骨もあるってことか。 「こいつが高校のときからの知り合いで村崎。村崎、こっちが武本」 「はじめまして、武本です」 「ども、村崎です。ってか同い年だから敬語とかなしで。コーヒーでいい?」 「悪いけど、武本はラテにしてやってくれ」 「コーヒーに牛乳じゃーっていれるだけでいいんで、お手数かけます」 「ジャーっといれてくるよ」  はいはい、武本君はラテがお好きということですね。  飲み物を用意して戻ると、飯塚の説明を真剣な顔で聞いている武本君。スーパーサブとかなんとか飯塚が言ってたけど、この様子だとサブ以外も余裕でできそうじゃん。 「生産性をあげたいが、今のところ打つ手がない。営業かけるとか広告打つタイミングじゃないし、金をかけても回収できる見込みがない」 「ってことは、この店を媒体にするってことだよね。村崎さん、ここの客層は?」 「村崎さんって宝塚みたいじゃね?下の名前は実巳(さねみ)なんだよね、武本君の下の名前は?」  ビジネスモードだった顔がほわっとなった。 「理です。じゃあ、サネ?だめだね、昔のばあちゃんみたいだ。ネミ……ミネ。じゃあ、ミネでいい?」 「それはオ初なネーミング、いいよ。んじゃ、俺は普通にサトル。 うし、で質問の答えは女子が9割、年齢は20~60代、一番多いのは30~40代かな」  サトルはトートからノートパソコンとチラシやら雑誌をとりだした。「ちょっと相談があるから来てくれないか」飯塚はそれしか言ってなかったのに、この用意周到さってナニ? 「仕出しみたいなことはやってない?」 「ん~おやじと二人の頃、相談があったときだけ対応してたかな。テイクアウトや弁当は、近くにデパチカもあるし、この場所じゃどうかなって話になって、それっきり。俺が一人になってからは正直手がまわっていない」 「来店客を取り込む、店に来られない……でもあったら便利……んん……」  サトルは持ってきた色々な店のチラシをテーブルに並べて腕を組みながら眺めている。 飯塚?お前さっきから何もしてないな…… 俺もだけど。 「どうかな、オードブルは?これだとクリスマスにも大晦日にも対応できる。どれだけ注文があるかわからないけど、あれだけ御節が売れてるから需要はあると思うよ」 「御節は無理です!」 「今年は無理でも将来的には考えたほうがいいんじゃないかな」 「そういえばオードブルは何度かオーダーあったって言ってたよな」 「あったよ。誕生日とか運動会だね。特に運動会は配達してくれって言われちゃう。用意はできなくもないけど、配達は厳しいじゃん?俺一人だしさ。取りに来てくれる人には対応したけど」  サトルがすごい勢いでメモとって、でかいポストイットに何か書いたあと片っ端からテーブルに貼りつけてます。 「じゃあ、試しに一台サンプル作ってみるっていうのはどうかな?」 「そうだな。突飛なものはできないし、食材も凝りすぎると調達に手間がかかってしまう。今は時間がないから常に手に入るものでメニューを練ったほうがいいな。村崎はどう思う?」 「まあ、確かに俺も考えていたことではあったけど、そんな数こないだろうしな、って諦めていたんだよね」 「何かベースがあって、それを増やしていく方法や可能性は後から考えればいい。 まずはキモをつくってみようよ、着手!」  いつの間にやら、サトル主導の『オードブル大作戦』が発動されました~♪

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