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<1月> 遊びの時間がやってきた

「それで?オードブルはどの程度になったんだ?」 「クリスマスと大晦日で合わせて30です」 「多少は売上に貢献したってことだ」 「でも、もっと早くに仕掛けていればって話です。もったいない」  課長はニヤニヤしながらコーヒーを一口飲んだ。商談なのか何なのかよくわからない用事で最近は課長と一緒に行動することが多い。疑問に思い尋ねると「武本のお披露目」だそうだ……まったくわけがわからない。 「でも楽しかったんだろ?」 「なにがですか?」 「お前な、わかりきったことを知らないふりするな」  この人にかかると俺は小学生か?といつも自信がなくなる。20年というキャリアの差は超えることのできない高い壁だ。 「おっしゃる通り楽しかったです」 「今回はボランティアだろ。武本にはいっさいギャラがない」 「あたりまえじゃないですか」 「コンサルト料、宣材のデザイン費、バイトの人材派遣費、その他モロモロ。 これ実際いくらかかるんだってことを俺は言いたいの」 「……たしかに」 「前に言ったことの超ミニミニケースだよ、今回のは。楽しいことが金になる」 「仰る通りです」 「それで?愛を囁き合ったか?」 「なんの話ですか?」 「わかりきったことを知らないふりするなって、さっき言ったぞ、俺は」 「俺ってそんなにわかりやすいですか?」 「お前より、飯塚だろう。あっちのほうがわかりやすいぞ?」  それはどういう?ことですか? 「なに、キョトンとしてるわけ?」 「言っていることが理解できていないだけです」 「飯塚はお前にベタ惚れだろうが」  えええええ!嫌われてはいない!でもあんな男前が、男の俺にベタ惚れ?ありえないってか、ありえたら嬉しすぎだけど、けど、けど!えええええ! 「真っ赤だぞ、カワイイじゃないの、武本君」  今最高に楽しそうにしているであろう課長の顔を見ることができません。顔面に血が集結している、すっげ~熱い。今なら首筋より熱いこと請け合いだ 「周りがせかしてどうにかなるって問題じゃないけどな。男が男に惚れるっての、俺わかるし」  え?今なんて言いました?絶対顔をあげないと決めていたのに課長の顔を見てしまった。 「若造の頃の俺は……お互い取り返しのつかない場所に片足をつっこんでいる自覚があった。それで俺達はなかったことにしたわけ。ちょっとだけ強烈な方へ友情が発酵しただけだ、友情以外の何物でもないと言い聞かせた」 「なかった……こと」 「そうさ、そんなことはありえないと蓋をしたんだよ。 俺はアイツに蓋をかぶせて、俺も同様ズッボリ栓をされた。 今『取り返しのつかない』って言ったな。そんなふうに考えたから、俺達には越えられなかった」  そんなことがあったのか。課長が結婚する前の話だろう。課長の愛妻家っぷりは有名で社内のネタになっているくらいだ。 「別にそれを後悔しているわけじゃないし、自他ともに認める愛妻家の今は幸せ以外の何物でもない。 だからさ~なんていうの?お前ら二人が横並びで歩く姿は、昔選ばなかった道の未来みたいに思えてさ。 代償?昇華?なんとでも言え。ま、そういうことだ。 お前だって俺に勝るものが一つくらい欲しいだろ?だから突き抜けちゃえよ」 「随分簡単に言いますね」 「そ、物事って突き詰めると単純明快」  確かに単純明快。俺は飯塚が好きで、課長の言うように横並びで歩き続けたい。二人の見る先が一緒であればなおいいと思っている。そして飯塚が俺と同じように思ってくれることを望んでいる。いたって単純明快。 「そろそろ始めちゃってもいいかなって頃合いにきたし」 「何をですか?」 「SABURO使って、大々的に遊びを初めてもいいかなってこと。色々ごったまぜにして巻き込んで、プロデユースのパッケージを作ってしまう。そしてそれを叩きにして、次のターゲットを得る」 「課長の頭の中のことはサッパリです」 「大丈夫だよ、お前ならついてこれるさ。店側と話はついてるし」 「ミネ、あ、村崎さんと?」 「実巳のほうじゃない、オヤジの三郎」 「し、知り合いなんですか!」 「うん」  どこまでこの人は俺を驚かせるんだ!でもそう考えると、飯塚のやりたいことを知っていたのも頷ける。ミネとこの人グル?なんかそれはチョット嫌な感じ。 「あ~もう、そういう顔しなさんな。実巳は俺がお前らの上司だなんて知らないぜ? 実巳は俺に「高校時代からの友達が入り浸ってて助かるって」話を楽しそうにしただけだ。それが飯塚だってわかったときの俺の喜びっぶり、わかる?」 「筒抜けだったってことじゃないですか。色々考えて必死だった自分がバカみたいですよ!渡辺と石川にも申し訳ない気分です」 「そんなことはないぞ」  ノラリクラリといつものように話をしていた課長の顔が急に真面目になった。 「お前の一生懸命さが俺を動かした。 会社っていうシバリ以外の所で、一緒に遊んで楽しめるヤツにようやく出会ったの。 実巳と飯塚と俺と武本で、少しヤンチャをしてみよう、楽しそうだろ?」 「だろ?って言われても、俺なんて言えばいいんですか」 「実巳の父親には兄貴がいたんだ。亡くなる時「三郎を頼むって」託された。だから今より悪いことには絶対しないし、するつもりもない。 実巳と飯塚が友達で、武本と飯塚がいて俺がいる。偶然ってのはあまり好きじゃないないが、偶然を必然に変えることは大好きだ。 この縁は神様が「絶対今だぞ!」って言ってるってこと、間違いなし。 しばらくは二足の草鞋になるから、俺もお前も超ハードになるぞ、覚悟しとけ」  やれやれ……。  人の縁は不思議だ。別々の場所にいたというのに今同じ所に立とうとしている。ミネの父親の三郎さんと亡くなったお兄さん、後を頼むと言われた課長、そして俺達。ん?お兄さん?『アイツに蓋をした』『選ばなかった別の道の未来』  もしかして?!思いつきが確信に変わる。そうでなければ、このタイミングで言うはずがない。それに結構微妙な昔話だ。でも、聞いた所でこの人が言うはずがないし、否定だって肯定だってしない。じゃあ、それに付き合えばいい。それが答えだ。 「じゃあ、具体的に課長がどういうものを目指しているのか聞かせてください」  課長は頬杖をつきながら笑顔を浮かべた。 「やっぱり、お前はイイね。今回は『わかりきってることは、知らないふりをしとけ』が正解」  俺の推理は肯定された。
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