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<1月> 男前、卑怯者になりさがる

「気になってることがあって、毎日不眠になっちゃってるわけ」  水を向けたところで言わない時は言わない、言いたい時はベラベラ話す。村崎はそういうヤツなので相槌は必要としていない。だから俺は黙ってコーヒーをすする。 「お前さ、サトルとやった?」 「うぐっ!」  熱いコーヒーが鼻から吹き出すかと思った。 「お前突然なにを言い出すんだ!」 「そんな突飛なことか?友達に「そんで?彼女とはやった?」って聞くだろ」 「彼女じゃないだろうが!」 「じゃあ、彼氏でもいいけど?」 「……」 「好きです!ぐらいは言ってるんだろ?当然」 「……」 「うっそ~まじで?お前さすがにそれはまずいだろう!」 「ま、まずいのか?タイミングがきたら自然に言うだろうと……」 「お前のその余裕ぶっこきが時たま腹たつ。考えたことあるか?」 「何をだよ」 「サトルのこと。てっきりお前が好き好き言って繋ぎとめているのかと思ってたからさ。 アイツは何の保障もないままだってことだろ?どうすんのよ。お前は傍にいられないのに、他のやつに持っていかれたら」 「なんとなく、それはないと……」 「なんだ、その俺様思考は。俺は危ないと思うね。サトルはモテるだろ?選びたい放題よりどりみどりだぞ。余裕ぶっこきもわからんが、好きなヤツに好きっていえないお前がわかんねえ~」  包丁を貰ったあの日、武本は「大丈夫だ」と言ったから、俺は安心した。あの大丈夫はどういう意味だったのか?俺の都合のいいように解釈していたとしたら?  そう考え始めると、俺と武本の間には「確か」なものが何もないことに気が付いてしまった。 『助かりました。忙しいのにすいません』  珍しく渡辺からの電話で、取引先の面倒くさい狸おやじに関しての相談だった。恩を売ったついでに、聞いてしまおうか……というか聞きたい。 「皆は変わりない?」 『変わりないですね、でも騒がしいですよ』 「なにが?」 『来月バレンタインじゃないですか。 石川も辟易って感じですけど、武本さんの身辺に関して聞かれまくりです。飯塚さんも覚えありって感じですね』  俺の小さなため息が聞こえたのだろう。 『本命や彼女関係のこと武本さん話題にしないじゃないですか。本当のところはわかんないですけど、いっそうのこと「本命がいるから望みなし」って御触れでもだしたいくらいです。周りがウザイですからね。俺ヒガミっぽいかな、笑うしかないって感じですよ』  渡辺の笑い声を聴きながら、それもありだと思い至った。 「本命いるって言っていいぞ」 『え、まじっすか?マジ情報ですか?』 「俺と武本の仲良しっぷりは皆のしるところだろ?情報のソースが俺だと言えば、外野も黙るだろう」 『飯塚さんは逢ったことあるんですか?』 「まあな」 『どんな人です?やっぱり綺麗な人なんでしょうね』 「それは俺の口から言えないな。こんなことバラしてるだけで、すっげ~怒られる」 『ですね。武本さん怒ると怖いですよね。今日はいい情報もらいました! あのおっさん絶対攻略してやります。あとギャーギャーいってるアイツらギャフンと言わせてやる。 うわ、なんか楽しくなってきました!これから石川にも話ます、おつかれっした!』  やや卑怯な絡めて手だったことは認める。でも多少一歩は踏み出した。さあ、これがどこに転がるか。多少けん制にはなるだろう。  しかし……俺は武本のことになるとホントに情けないヘタレだ。

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