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耳元で囁く小さな小さな声に思わずぎゅっと目の前の服を掴む。 サテンのサラサラした生地は触り心地が良く、たまらず頬をくっ付けた。 そのまま暫く俺はそうしていた。耳の上から腕が回っていたお陰か女優の悲鳴も異常に鳴り続ける遮断機の音も、どこか遠くから聞こえてくるみたいで然程恐怖を感じない。 渥はこの手の恐怖番組には一切興味も関心も示さない。ただ今日は俺達が渥の部屋で見るから仕方なく一緒に見ているだけで、心霊系は全く信じていないのだ。 全くもって可愛げのない子供だと今なら思うが、当時はそんな渥のことを凄いやつだと尊敬していた。 こうして俺が怖がらないように自分の方へ体を向けさせて耳まで塞いでしまう。同い年なのに埋まらない差を感じる。絶対また後でネタにされるのが分かってるのに… やっぱり渥は頼もしい。 俺の自慢の幼馴染だ。 …格好良すぎだっつーの! 「…あっ!!リク…!」 「しっ」 「…なんでリク、アッちゃんの方向いてるの?テレビ見えないからってそっち行ったのにぃ」 「つまんないから寝ちゃったの。うるさくするなよ。俺は起きててやるから」 「えー?そーなの?…リク、すごいね…こわいの平気なんだ」 「…お前が怖くないものを睦人が怖がるわけないだろ?」 ほんとは起きていた。遠くの世界から聞こえてくるようなテレビの音に、ほぼ落ちそうになってはいたが。 だから感嘆の声を漏らす有紀が、どんな表情をしていたのか俺には見えなかった。 でも声のトーンからして尊敬でキラキラした眼差しを俺に向けてくれていたことだろうと思う。

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