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目指せ!玉の輿 | モブ
「藻武 〜」
「やだ」
「まだなにも言ってないじゃん。帰んないの?」
「僕はもうてっちゃんみたいな何の変哲も無いβと戯れるのはやめるの!やっっ…とココに入れたんだよ?カッコよくて将来有望なお金持ちαを探すんだから!」
友人に対して己の欲望を包み隠さず吐露している彼の名前は藻武という。
周りに可憐な印象を与えるまるで女の子のような顔付きだが、彼は彼であり彼女ではない。つまり男性。
そして男性でありながら第三の性はΩだ。
絶賛、将来の番となるべく相手…別名、金ヅルを探し中である。
「はあ…?まだ言ってんだ?この前食堂でヤバイの見たばっかだろ。あんなα集団に飼われるみたいな扱い受けるのヤだって言ってたじゃん」
「あっ、あれはヤだけど、普通に1人のαに飼われるんなら本望だもん!」
「普通に飼われるって文章が意味不明なんだけど。浮気されまくったらどうするわけ?」
「っ、いーの!てっちゃんは黙っててよ!僕の溢れんばかりの魅力があればなんとでもな……ああ!?」
「なに?」
「見てあそこ!渥先輩がいる!!えっ、しかも一人だ!?……これって…神様が善は急げって言ってくれてるってことだよね?分かった!じゃあ僕行ってくるよてっちゃん!」
「は!?俺は何も告げてないし渥先輩って…馬鹿!あの人は…………足早すぎ…」
神様のお告げが聞こえた藻武は奪うように自らのカバンを持つと、一度も振り向くことなく走り去ってしまった。
一人残されたのはなんの変哲もないなどと悪口を言われたてっちゃんこと寺川だ。
寺川は少々思い込みの激しい猪突猛進型の友人を思い、大きく溜息をついた。
◇
人類の中でも希少な存在であるαが集まるこのマンモス校で「αといえば」で、まず真っ先に名前が上がるのは黒澤渥という男だろう。
藻武は教室の窓から見つけた黒澤に、数歩先まで接近すると後ろからそっと声を掛けた。が、返事はないうえに足も止まらない。
聞こえていないのかしらと今度は大きな声で名前を呼んでみる。するとどうだ。
「あ…」
立ち止まり振り向いてくれた顔は、藻武の出会った中で誰よりも整い誰よりも美しく、歪んだ部分など一切ないまさに完璧 な造形であった。
芸術品に感動をしたことなどないはずなのに、目の前の人間に対しては感動で鳥肌が立つ。
ただその表情は笑いもせず怒りもせず、無表情。
それは意図せず黒澤の作りの良さを際立たせる要因にもなっており、この人はきっとライン作業で作られた寺川とは違い、神様がなかなか手に入らないレア素材を使って一つ一つ丁寧にお作りになられたんだ、と藻武が考えたほど。
「!………っ、…」
そして藻武の勢いが良かったのはスタートダッシュだけ。いざ本人を目の前にするとあまりにも今まで関わってきた人種とかけ離れた、いわゆるαのオーラにたじろぎまくりの藻武であった。
――こここ声が出ないんだけど…!?
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