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それぞれにカバンを持って階段を降りていたお目当ての二年生を見つけて、藻武は廊下の陰から飛び出した。
「佳威先輩!」
「は!?なんだお前」
「そのネクタイの色、一年生?」
「へー、色で学年分かるんだ?」
「そうだよ。教えてなかったっけ?」
「うん、てか有紀がネクタイしてる瞬間少ないからネクタイが違うこと自体気付かなかった」
藻武は目を輝かせながら二段上にいる高身長の生徒を見上げる。彼が次に目をつけたのはこれまたαの中でも一目置かれる存在の光田佳威だった。
光田の実家は光田組という超がつくほど名の知れた極道だ。通常であれば近寄りがたい存在であるが、そんなことは藻武にはなんの障害にもならない。
周りが羨ましがるようなイケメンでお金持ち、または将来有望であればさして問題はない。
ネクタイの話で盛り上がる友人達と一緒にいるからなのか、光田には黒澤と対峙していた時ほどの息のし辛さは感じなかった。
「僕一年の藻武です!佳威先輩、今ちょっといいですか??」
「よくない」
「えっ…?」
――即答?
「もしかして告白?」
再び予想外の展開で固まりかけた藻武だったが、光田の隣に居た妙に落ち着いて優しそうな一人が声を掛けてくれた。
「!」
光田にしか意識を向けていなかったこともあり、初めてその姿を視界に入れて、この人も素敵なのではと浮気心が顔を出す。
見れば見るほど藻武的にかなり好みのタイプだ。
ただαかどうかという肝心なところが分からない。
「〜〜っ、告白だなんて!そんなストレートに言わないでください…っ」
揺らぐ心をひとまず抑え込み、ここは確実にαである光田を仕留めるべく軌道修正をした。
「だから僕、佳威先輩に僕の気持ちを聞いて欲しくて…」
「悪ぃけどそんな時間はねえな」
「えっ…?」
またもや即答。
「ほ、ほんのちょっとでいいんです!お手間は取らせません!10分…いや、5分で結構です!」
「無理。間に合ってる」
「そんな!」
飛び込み営業をする営業マンの如く粘るが、気持ちいいくらいに取り付く島もない。
――間に合ってるって、一体何が間に合ってるんですか!
無意識に頬を膨らませた藻武を見兼ねたのか、さらにもう一人傍に居た生徒が声を上げた。
「じゃあ、俺ら先に行ってようか?そんなに時間かからないって本人も言ってるし、席とっとけば問題ないだろ」
「ちょい待て睦人」
「話聞くくらいなら……そういう問題じゃないやつ?」
「いいえいいえ!そういう問題ですとも!ありがとうございます!えっと、席?ご飯屋さんですか?よく分かりませんけど、では、どうぞお行きになってください!」
「行かねーつってんだろ」
誰か知りませんがてっちゃんみたいに並レベルのあなた!ありがとう!と心の中の藻武が満面の笑みで拍手をしたが、お目当ての相手は眉間に皺を寄せて藻武を睨む。
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