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コポコポと水を流し入れる音を聞きながら、佳威がポツリと呟く。
目線は手元のコップとピッチャーに注がれているので、俺もその手元に視線を落とした。
「…それは、やっぱり佳威が、αだから?」
佳威は、気さくで喋りやすい。
黙っていると強面なのに、爽やかに笑う笑顔は気持ちいい程に好感が持てる。だからなのか見た目は確かにαの遺伝子だと分かるのに、驚くくらい取っつきやすい。
かといって誰彼構わず愛想を振りまくのかというとそうではなくて、気に入った相手にのみ注ぐ姿勢は、割り切られていてなかなか簡単には真似できないものだとも思う。
それが佳威と出会ってから数日で分かったことだった。
だけど、それでもやはり考え方はαということか。…α以外は同等に見れないんだろうか。
少しだけ寂しい気持ちになっているとガラスが机に触れる音がして、並々と水を注がれたコップが目の前に置かれた。
目線を上げると佳威の視線はいつの間にか俺に戻ってきていて、垂れ気味のハッキリとした形の目と視線がかち合う。
「俺がαだからなのもあるだろうな。何せ物心ついた時から嫁は必ずΩにしろって口煩く言われてたし」
「……………ん?」
「なんつーか、もうΩ以外は恋愛対象にならねえんだよな。いいと思う人間が居たとしても、それ以前にそいつのバースが気になるんだよ」
損な体質になったのもそのせいだと忌々しそうに呟く佳威に、俺の動きが数秒止まった直後、我慢できずに吹き出してしまった。
「ふっ、ハハ!なんだ、俺はてっきり…!」
「なんだよ」
「……いや、なんでもない」
「はあ!?言えよ!てっきりなんだ!俺そういうの気になって夜寝れなくなるタイプなんだぞ!」
「嘘だ!?佳威絶対忘れて速攻で寝れちゃうタイプだろ!てか俺の蕎麦がっ…伸びる…!」
「おい、睦人!!話を逸らすな!」
正面から腕を掴まれそうになったので、器ごと体を引いて今のうちにと残りの蕎麦をズルズルと食べきった。
机越しに佳威が眉間に皺を寄せていて、一瞬ビビる。
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