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悔しくなって口を尖らせると、手が伸びて来てぐにっと上唇と下唇を掴まれた。
「んむ!?」
「そりゃ睦人より精神年齢大人だからな。つーか、話逸らしただろ。気付かないとでも思ったか!」
「──!っ、佳威!つまむなよ!」
「つまんでくださいって口してるお前が悪い」
「なんだそれ!そんな口してない!」
「してましたー」
佳威は楽しそうに笑って、重ねたトレイをさっと片手で持ち上げた。
「ま、いいや。そろそろ行くぞ」
「あっ、俺持つよ!重ねたの俺だし」
「そういうことはしっかり肉を付けてから言え」
言うが早いか、佳威はそのまま返却口に歩き出してしまう。
「…はー……」
佳威の男らしさの中に感じる優しさを目の当たりにし、今まで抱いていたαへのイメージががらがらと崩れていく音を聞いた。
背が高く肩幅も広い佳威の背中をしばらく見つめていたが俺だったが、ハッと我に返る。
そして、先を歩く佳威の後を追い掛けるために急いで駆け出した。名前を呼ぶと足を止めて振り返る。早くしろよ、とぶっきらぼうな言葉と共にこちらに向ける表情は、いつも通りの爽やかな笑顔だった。
end.
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