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雑誌を開いてそれに目を落としながら、有紀の言葉に耳を傾ける。
視界の端でダランと背中に背負った学校規定のカバンを左右に揺らしながら、有紀が脱力したように息を吐いた。
「リクってば、ほんと人の気持ち分かってない~。小学校で習ったでしょ?自分がされてイヤなことは人にしちゃいけませーんって。しもだセンセーがよく言ってたじゃん」
「下田先生?うっわ、懐かしい!あのパーマかけた赤メガネのだろ?結構好きだったんだよなあ、あの先生………ていうか俺、自分がされてイヤなことした?」
数分前の記憶が正しければ、した覚えはない。なんの日か聞かれて、知らないと答えた、ただそれだけだ。どこに駄目な部分があったんだろう。
「したした!超した!俺超傷付いた!」
「…嘘つけ。傷付いてるやつがそんな元気なわけあるか」
「キジョーに振舞ってるだけだもん!リクの人でなし!」
そこまで?
人でなしと言われるとは心外だ。
さすがに気になって、気丈の意味を分かって言ってるのかも怪しい有紀に視線を向けると、俺が自分の方を向いたことが嬉しいのか猫のように目を細めて笑う。
先程までムスッとしていたというのに、なんという変わり身の早さだ。
「で?結局、今日はなんの日なんだよ」
「ふふふ。今日はね~」
正直に言えばそこまで興味も無いが、これ以上機嫌を損ねるのも後が怖いので話を戻す。有紀はピトッと腕と腕がくっ付く距離まで近寄って来て耳元に顔を寄せてきた。
「キスの日、だよ」
吐息がかかる程の近さで囁かれ、鳥肌が立って勢いよく有紀から身を離した。
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