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03
そして、迎えた3月14日。
一つ年下の幼馴染が「海老を貰って鯛を返す日でしょー?」と述べた日。
「お供え物が……」
「供え物って言うな」
「自分がチョコの時言ってたんだろ」
「そうだっけか?」
自分の机に山積みに小包装された市販のクッキーを見上げて不思議そうな顔をする佳威の横で、俺は自分のカバンを肩にかける。
廊下を見るとお供え物目当てであろう女の子達が息を潜めてこちらを伺っている。極めてシンプルに、怖い。
「佳威、準備終わったんなら帰ろう」
「おう。つか、なんかお前怯えてね?」
「俺にはここが戦場に思えて仕方ないんだ…!」
「…大丈夫かよ」
意味の分かっていない佳威にいちいち説明するのも脱力感を感じ、足早に教室を後にする。
少しして背後で女の子達の黄色い悲鳴が轟いてきた。
「あんなホワイトデーの返し方初めて見たんだけど」
「毎年アレだぜ。楽でいい」
「自慢か…自慢なのか…」
独り言のように呟く。ホワイトデーのお返しをするだけマシだと言われればそれまでだが、佳威は誰から貰ったのか把握していないので毎年机の上に貰った数そのまんまお返しを置いておくらしい。ご自由にお取りくださいのスタンスだ。
豪快すぎるが、佳威らしいと言えば佳威らしいお返しの仕方である。
一方ケーイチは今、貰った子一人一人にお返しを渡しに行っている。佳威の返し方にも問題があると思うが、わざわざ自分を探して優しい言葉と共にお返しを手渡されるのも誤解を生む要因では、と勘ぐる。まあこちらもケーイチらしいっちゃ、らしいんだ。
「…あれ、ケーイチじゃん!」
「睦人。佳威も。もう帰るの?」
ケーイチに好きな人がいるという話も聞いたことがないしなあ…なんて考えていると、噂をすればなんとやらでちょうど廊下の曲がり角からケーイチが姿を現した。
手に持っていたお返し用の茶色い紙袋は教室を出る前に比べると痩せてしまっている。
「佳威も無事お供えし終わったからな、帰るよ」
「ああ、ほんと?じゃあ今教室は大変なことになってるだろうね。俺も一緒に帰ろ」
「逆にお前なんでここにいんだよ?そのまま帰ってんのかと思ったわ」
俺の横に並んだケーイチに向かって、佳威が顔を覗かせる。そういえばそうだ。何故ここに。
「実は、お菓子が余ってさ、2人にあげようと思って。いる?」
「マジで!?いるいる!」
「俺いらね。どうせまたマシュマロだろ」
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