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終章 2

 涼正の目の前に鋭い鷹斗の瞳が現れる。  茶色の瞳に見つめられるだけで、涼正は体の芯の奥底の方に潜む熱が引きずり出されていくのを感じた。  視界一杯に映る鷹斗の体は頭上から降り注ぐ湯でしっとりと濡れ、肌が艶やかな色気を放っている。  頬を伝う水滴。厚い胸板から腹部にかけての引き締まったボディライン。赤茶色の髪の間から覗く瞳。そのどれもが涼正の瞳を惹き付けて止まない。 「涼正、好きだ。やっとあんたを抱けるんだな」  濡れた髪を鷹斗に掻き上げられ額に温かな唇を落とされると、涼正は胸に広がる幸福感がくすぐったくて身を捩った。  照れはまだ当然涼正の中にも残っていたが、今はそれよりも二人に触れてほしい気持ちの方が勝った。 「なんだか、夢みたいだ」 「夢じゃねえよ。俺も兄貴もここにいるだろ?」  頬を染めながらどこか夢見心地で呟いた涼正の頬に鷹斗が軽く唇を押し当てる。その感触は紛れもなく本物で益々涼正の胸を高鳴らせた。  チュッ、チュ、と涼正の顔のあちこちに鷹斗の唇が軽く触れては離れていくが、一番触れてほしい場所は焦らしているのか吐息が擽るだけ。切ないような、痺れるような疼きを感じ涼正はせがむ。 「鷹斗、キス……して、ほしい」    一瞬驚いた表情を浮かべた鷹斗だが、涼正の珍しい懇願に気を良くしたのか濡れた唇が艶やかに弧を描いた。 「あんたから強請られんのっていいな。なんかこう、クルもんがある」  グッと顔を近づけられ、次の瞬間には鷹斗の唇が涼正のそれに重なっていた。 「んんっ、……っふ」 「ん、……っは……涼正」  息継ぎの合間に甘く掠れた声で名前を呼ばれ、鼓膜からジワリと染み込み涼正の体の中で溶け媚薬のように全身に回っていく。  うっすらと瞼を持ち上げると、熱っぽく潤んだ鷹斗の瞳が間近にあった。涼正が覗き込んだ向こう側に同じように熱っぽい瞳をした自分がいる。  吐息までも飲み込んでしまうように深く、深く口付けられ息苦しさに喘いだ胸を鷹斗の手がまさぐり始め涼正はヒッ、と小さく喉を震わせた。  鷹斗や政臣よりも薄く、女性とは違いなだらかな胸の上では触れられてもいない乳首が赤く熟れた様に色づき凝っている。  涼正はそれが堪らなく恥ずかしかった。  そろりと手を持ち上げ、胸の尖りを二人の視線から隠そうとしたのだが「隠すな」と政臣に遮られてしまった。 「っん……う」  肌を滑る視線にさえ感じてしまい、涼正は目もとを赤く染め上げながらふるりと体を震わせる。  少しばかり痩せたとはいえ年齢の割に引き締まった体。濡れた健康的な肌が白熱灯に照らされなんとも言えぬ光沢と色香を放っていて政臣と鷹斗は知らずゴクリと喉を鳴らした。 「あんた、エロすぎ……っは。加減きかねぇかも……んっ」 「鷹、斗……っふ、ぅ……んん」  涼正の媚態に煽られた鷹斗がぬるりと口蓋を舐め上げ唇へと吸い付くのに涼正は堪らず甘ったるい声を溢していた。  頭上から降り注ぐ湯のせいではなく、体の内側から焦がさていくような熱が涼正を苛んでいる。 「涼正、こっちも感じろ」 「ひ、あっ、んん――ッ!!」  それまで静観していたはずの政臣の声が唐突に聞こえたかと思うと胸の凝りを温かい感触のものに食まれ涼正は堪らず嬌声を上げたのだが、見越したように深められた鷹斗の口付けによって全て飲み込まれてしまった。  口内では鷹斗の舌が歯列を辿るように舐め、政臣の舌が胸の敏感な皮膚を転がすように刺激してくる。  涼正は苦しげに眉を寄せながら頭を振った。  良すぎて、おかしくなってしまいそうだった。いや、二人に抱かれたいと思ってしまった時点でおかしくなっていたのかもしれない。  肩や背中を叩く水にさえ快感を煽られ、涼正は忙しなく胸を上下させた。  シャワーの音よりも涼正は自身の心臓の音の方が大きく聞こえるような気さえした。 「ほら、こっちに集中しろよ……んっ」 「んん、ん——っ!!」  涼正が別の事に気を取られていたことを見透かしてなのか。鷹斗が咎めるように涼正の舌先に軽く歯を立てた瞬間、涼正の瞼の裏で火花が散った。  快感の波が押し寄せてくるがまだイクまでには到底足らない。  ――イキたい……。  涼正の腰が白熱灯の下、もどかしげに揺れたのを政臣と鷹斗が見逃すはずがなかった。  口内を弄られていた舌と胸の尖りを食んでいた唇から唐突に開放され、内心感じた寂しさに戸惑いながら涼正は荒い息を溢した。  息が整わぬまま二人を見遣ると、二人とも意地の悪い笑みを唇に乗せている。 「イきたいなら、おねだりしろよ?」 「アンタがしたいようにしてやる。だから、その口でどうしてほしいのか言ってみろ」  涼正の喉が震えた。  確かずっと前に今と同じようなことを言われたような気がするが。あれは、確か夢だと思い込んでいた現実での出来事で。  思えば、あの時から全てが変わり始めたのかもしれない。  しかし、今とあの時では涼正の気持ちが違う。  涼正は大きく息を吸い込むと熱い吐息と共に一息に吐き出した。 「俺のに触って……イかせて、ほしい……」

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