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終章 3
羞恥で顔だけではなく体も赤く染まった涼正の姿は、二人の情欲を煽るのには十分だった。
「ひっ、あああ――っ!!」
ゆるゆると頭をもたげ始めていた中途半端な硬度のペニスを鷹斗の熱い掌に包まれた瞬間、涼正は大きく体を仰け反らせていた。
待ちわびていた刺激だが、焦らされていた体には些か強烈過ぎたのか。涼正の目尻には涙が浮かんでいた。
それを舌先で掬い取りながら、鷹斗が笑う。
「触っただけでイきそうとか、マジ淫乱の素質あるよな」
揶揄するような言葉が耳に痛いが涼正はそれを否定することが出来ない。なぜなら、鷹斗の手の中の涼正のモノはさっきの刺激で完全に勃起してしまっていたからだ。
そればかりか、痛々しいほどに熟れた亀頭の先からはシャワーから零れる湯とは違う粘り気のある蜜が染み出し鷹斗の手を汚していた。
「そんなに俺の手、イイのかよ」
「っう、んん……はあ、はっ」
返事をしようにも涼正の唇から零れるのは甘い喘ぎばかり。どうにか頭を振って答えると、良くできましたと言わんばかりに鷹斗に頭を撫でられた。
ゆるゆると竿を鷹斗の手で扱かれる度に涼正の体が波打つように震える。
蒸気が籠った室内の中に仄かに青臭さが混じるように感じるのは涼正の気のせいだろうか。
涼正にとっては性行為とは無縁にみえるような場所でペニスを鷹斗の手によって弄ばれているという状況は堪らなく涼正の背徳感を刺激した。
「鷹斗ばかりに気をとられるなよ」
「な、に……ひ、あっ!! あ、あああ――ッ!!」
政臣の声がしたと思いきや、いきなり襲ってきた刺激に涼正は目を向いて嬌声を喉から迸らせていた。
ビクビクと中々引かぬ快感の波に体をのたうたせながら、刺激の原因を探し視線を下すとシャワーヘッドを掴んだ政臣の手が見えた。
さっきまで頭上から降り注いでいた湯が、今はその水圧で涼正のペニスを叩いている。
水圧といっても強くはなく、どちらかといえばもどかしい強さのそれが人間の手とは違いランダムに涼正のものを刺激し、涼正は啜り泣きながら身をくねらせた。
政臣に視線で助けを乞うたのだが、政臣は涼正の姿を見て楽しんでいるのか口角上げるだけでシャワーヘッドを遠ざけようとしない。寧ろ、遠くから近くから、といったふうに強弱をつけて責めたててくるものだから涼正としては堪ったものではない。
鈴口からはひっきりなしに先走りが零れ、湯に混じっては排水口へと流れていくように終わりの見えない快楽の炎に全身をとろとろと炙られて涼正は本当に気が狂いそうだった。
実際狂えてしまえば楽だったのかもしれないが、政臣の巧みな責めはギリギリで涼正の正気を引きとどめてしまう。
――も……無理、だ……。
涼正は体の中でわだかまる熱を吐き出したい欲求に駆られ、無意識のうちに手を下肢へと伸ばしていた。
しかし、涼正の手がペニスへと伸びる前に政臣によってピシャリと叩き落とされてしまった。
「っ、……なん、で……」
ようやくイケると思っていただけに落胆が大きく、涼正は責めるような視線を政臣に向けていた。
「俺は、イキたい時はきちんと口にするようにと言ったはずだったと思うが?」
「そ、んな……」
切羽詰まった涼正の悲痛な声が浴室に落ちた。
猫がネズミをいたぶるように涼正を言葉でも追い詰め楽しんでいるのか。政臣は切れ長の涼やかな瞳の奥を妖しく光らせ、涼正を見下ろしている。
その間にも涼正のペニスにはもどかしい刺激が送り込まれ、鷹斗の手の中で限界まで育ってしまっていた。
少しでもシャワーから逃れようと涼正が腰を動かす度に、育ち切った涼正のそれも揺れる。
けれども、政臣が簡単に涼正を逃がしてくれるはずもない。
鷹斗に涼正のものを掴まれているとはいえ、手にはほとんど力は入っておらず。体に至っては今は拘束されている訳でもないのに、涼正はその場から一歩も動くことが出来ず、結局シャワーのからもたらされる快楽に絡めとられてしまうのだ。
「はあ、ん……んんっ!!」
それまで動きを止め添えられるだけだった鷹斗の指が唐突に涼正の竿の部分を爪先で軽く引っ掻いてきて、涼正は甲高い声を漏らしてしまっていた。
慌てて唇を噛み締めてみたが遅く、湿った空間に甘い余韻を残してとけるように消えっていった後だった。
「今の、良かっただろ?」
耳朶に直接吹き込まれる鷹斗の問い掛けに涼正は素直に頷く。
軽く触れられただけだというのに、今もまだ涼正の体の中で痺れるような感覚が腰を中心に渦巻いているような気さえする。
「もう、嫌だ……イかせて、くれ……」
ポロポロと涙を溢しながら涼正は懇願した。もともと限界に近かったがこうも焦らされては堪らない。
本当ならば、今すぐにでも自身で慰め射精してしまいたいほどなのだが。先程政臣に止められてしまったのもあって、そうすることが出来ない。
縋りつくように鷹斗を見上げた瞬間、涼正の目もとに濡れた感触が触れた。
「あんま泣くなよ。ただでさえ加減きかなくなってんのに、もっと酷くしたくなる」
チュッと可愛らしいリップ音を響かせ離れた鷹斗が、赤い舌を薄く開いた唇から覗かせながら笑った。
あの舌で鷹斗はどんなふうにキスをするのだろうかと想像したのが遠い昔のように思える。今はもう、どんなふうな感触でどうやって涼正を責めたてるのか知っていて期待してしまっていた。
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