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終章 5
まるで媚薬の類のようだ。いや、それよりも性質が悪いかもしれない。
口内や胃が焼けつくような感覚が涼正を襲い、込み上げる飢餓感を癒そうとするかのように口内に溢れかえる唾液と鷹斗の体液が混じり合ったものを飲み込んだ。
しかし、それでも溢(あふ)れるものの方が多いのか。ツウッととろみのある液体が涼正の口の端から零れ落ち、タイルの床へと落ちる。
息苦しさに涼正が時折口を離すと、まるで無理をしなくてもいいとでも言うように鷹斗に頭を撫でられた。
いつもは乱暴な言動の多い鷹斗だが、涼正の髪を梳く手つきは壊れものを扱うように優しい。
だからこそ、涼正の欲望と意地に火をつけた。
窄めた唇で竿を扱きながら舌先で苦みの混じる先走りが零れる鈴口をこじ開けるように動かすと、ビクビクと鷹斗の体が震えた。
「……っ、う……は、あ。ヤバ、イ……って……」
涼正の頭上では込み上げる射精感を必死に押しとどめようとしている鷹斗の掠れた声が聞こえる。
口内のものも限界まで張り詰め、時折グロテスクなほどに浮き出た血管が脈打っているのさえ感じた。
息苦しいはずなのに、口内のものが堪らなく愛おしく感じるのはやはり鷹斗を愛しているからなのだろう。
――こんなんじゃ父親失格だな。
そう思うものの、涼正は前のように落ち込まなくなっていた。確かに父親としては失格ではあるが、政臣と鷹斗はそれでもいいと言ってくれると信じていたからだ。
そして、なにより涼正自身が二人の前では父親ではなく二人を愛する一人の男として有りたいと思うようになっていたことが一番大きいかもしれなかった。
「涼せ、……も、いい……から……離、せっ……」
額に滲む汗が珠になり伝い落ちるのを拭う余裕もないのか。鷹斗が眉を寄せ苦しげに喘ぐ姿は遥かにアイドルや俳優のグラビアなんかよりも色っぽくて、ダイレクトに涼正の欲を刺激した。
引き剥がそうとする鷹斗の手に逆らって、涼正は喉の奥まで咥えこみジュル、と啜った。
「う、あ……っく――っ!!」
短い呻きと共に鷹斗の体が痙攣するように震え、涼正の口内では鷹斗のペニスがビクンとしなり奥の方へと白濁を吐き出した。
ドロリとした液体が喉に絡む。鷹斗と政臣がしたように自分も飲み込みたいのに、中々喉を通っていかない。
「ぐ、ぅ……ゴホッ、……ん、う……」
それどころか噎せてしまい、開いた涼正の口内から白濁がボタボタと下に落ちてしまった。
「あーあ、ほら大丈夫か? だから、離せって言ったのに」
苦笑いの混じる声で鷹斗に心配されながら背中を擦られ、漸く落ち着いてきた涼正は不満の残る表情で流れて消えた白濁の残滓を探しタイル張りの床へと視線を落とした。
政臣がいつの間にか壁にかけたのだろうシャワーから噴き出す湯にざあざあと押し流されてしまったのか、タイルは綺麗なまま。
なんだかそれが酷く勿体なく思えて、同時に悔しくて。涼正は子供の様に唇を尖らせ不満を溢した。
「鷹斗も、政臣も……ズルい……」
「いや、ズルいもなにもないだろ。つーか、無理に真似しようとか考えなくていいんだよ」
ポンポンとあやすように頭を撫でられ、涼正は子供扱いされているようで面白くなく益々膨れっ面になる。
ただ、政臣と鷹斗が自分にしてくれたようにしたいだけなのに、どうしてこうも上手くいかないのだろうか。
涼正はどうしようもないもどかしさに歯噛みした。
「無理してやった訳じゃない……鷹斗と政臣だから……したかったんだけど……」
肩を落としたまま本音を口にした涼正の頬を鷹斗がそっと手で包み込んだ。
見上げた先の真剣な二つの目から、涼正は視線が逸らせない。
「……アンタはそのままでいいんだって。あんま可愛いことばっかりすんなよな、本当に加減してやれなくなるだろうが」
加減なんてしてくれなくていい。涼正は、本当は今すぐにでもそう言ってしまいたかった。
けれども、不適な笑みや人を小馬鹿にしたような笑みではない。日溜まりのような温かな笑みをフワリと浮かべた鷹斗を目にした瞬間、ドキリと胸が高鳴って何も言えなくなってしまった。
ゆっくりと額に掛かる髪を掻き上げられ鷹斗の柔らかな唇が涼正の額に触れ、離れていく。
触れられた部分がジンワリと温かく感じ、涼正が頬を染めながら額を押さえていると政臣のからかうような声が聞こえた。
「それよりも、お前が加減してもらった方が良かったんじゃないのか? 早漏だと涼正を満足させてやれないだろう」
「っ、早漏じゃねえ!!」
揶揄にムキになった鷹斗が吠えている隙に、政臣が涼正の腕を掴み引き寄せようとする。
「涼正、こっちに来い」
クッと腕を引かれれば特に抗う理由もなく、涼正は素直に従い政臣の側に寄った。
政臣は素直な涼正の顎を猫をあやす時のように指先で擽り微笑む。
「いい子だ。ここで四つん這いになって尻だけ高く上げるんだ」
政臣がタイル張りの床を指差す先、タオルが敷かれた部分があった。
恐らく、涼正と鷹斗が口淫に耽っている間に政臣が準備したのだろう。
涼正は恥ずかしさをぐっと呑み込むと、そろそろと足を動かしタオルの上に膝立ちになる。
それから、ゆっくりと上体を床に付け腰だけを突き出すように高く上げた。
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