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第五章 2
翌朝、涼正はまだ玄関マットの上にうつ伏せで倒れていた。朝だとわかったのは、鳥の囀りが微かに涼正の耳に届いたからだ。
「っ、……痛い」
床で寝たせいだろうか。腰の痛みはマシになったが、今度は体の節々が痛み、涼正は顔を顰めた。
一難去ってまた一難、とはこのことだろうか。涼正は溜め息を着きながら身体を起こした。
そうして、そのままバスルームへと向かう。体の芯から冷えきっていたのもあって、熱いシャワーを頭から浴びて温まりたかった。それに、昨日の痕跡を体から全て消し去りたかった。
バスルームへ入るなり、すぐに衣服を脱いだ涼正は鏡に映った冴えない表情の自分を見詰めた。自分でも〝酷いな〟と思ってしまうほど鏡の中の男の顔色は青ざめ、疲れきっているのが一目でわかる。
(……こんな顔じゃ、息子達と顔をあわせられない)
聡い息子達の事だ、涼正がこんな顔色をしていれば留守中に何かあったのだと気付くに違いない。それに、〝大したことではない〟と涼正が言ったところで引き下がるとは思えない。
涼正が理由を話すまで追究の手を緩めはしないだろう事が容易に想像出来るからこそ、涼正は焦った。
理由を聞いたが最後、二人の息子達は情けない涼正を蔑むかもしれない。いや、最悪の場合、親子の縁を切られてしまうかもしれない。
それが涼正にとっては堪らなく恐かった。
いつかは自分の元から離れてしまう覚悟はしているが、修復できないまでに家族が壊れてしまうことは望んでいない。
その瞬間を想像しただけで、涼正の身に裂かれるような痛みが走った。それだけは、絶対に避けなければならない。
あの一夜の秘密を隠し通すと決めた涼正は、シャワーのコックを最大まで捻り熱い湯を頭から大量に浴びた。
湯気が立ち込める中、そっと指を双丘の奥――四條からの凌辱の跡が残るその部分へ移動させる。
「っ、……う」
触れた瞬間、ピリッとした小さな痛みが走り手を止めた涼正だったが、唇を噛み締め指を進めた。散々弄られた後とあって、大した抵抗もなく指が呑み込まれていく。
蠢く中が涼正の指に絡んで、戸惑わせた。
「……ふぅ……っ」
感じる一点を刺激しないように、涼正はそっと中に出されたものを掻き出した。ザア、ザア、と大量に足元を流れていく湯に異色が混じっては消える。
それを何度か繰り返した頃だろうか。ようやく全てを掻き出し終わり、涼正は荒い息をついた。
時間にしては十分も経っていないと思うが、涼正には長く感じられた。このまま、眠ってしまいたいがそうもいかない。涼正は下りそうになる目蓋を持ち上げ、ただ淡々と、事務的に身体や髪を洗う。
あまり時間をかけずに洗い終えると、濡れた身体をザッとタオルで拭い衣服を身に付けた。拭い忘れた水滴が髪から滴り落ちるが、気にしていられない。
涼正は自室へと戻るなり、ベッドへと直行した。
――……起きた時には、普段通りに戻ってるはずだ。
そう信じて、涼正は瞳を閉じた。
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