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第五章 3
「っ……、……う」
身体中が悲鳴をあげているような軋みを感じ、涼正はうっすらと目蓋を持ち上げた。閉じ忘れたカーテンから覗く窓の向こう側は薄い墨を引いたような空に赤い夕日が消えていくところだ。
どれくらい寝ていたのだろうか?
時刻を確認しようと起こした身体が、酷くダルいことに涼正は気が付いた。まさかと思い額に手を当てると案の定、熱がある。
完全に風邪をひいたようだ。身体の不調の原因を風邪だと認識した途端、背筋がゾクゾクとした。
普段通りに戻っているはずと言い聞かせ眠りについたのに、風邪をひいているとは予想外でしかない。
「……はぁ」
身体がキツく、何もする気が起きない涼正は再び布団に身体を横たえたのだが、だいぶ寝ていたこともあり目が冴えてしまっている。おまけに、喉の奥が熱くて苦しい。
涼正は、ぼんやりとした頭で布団の中から抜け出した。そして、枕元に置いた携帯を確認してみるとディスプレイには午後六時の表示。
どうやら結構な時間寝ていたようだ。
――けど、それにしては……。
涼正は引っ掛かりを覚え、再び携帯に視線を落とす。ディスプレイには相変わらず時刻が表示されているだけで、新着メールのマークすらついていなかった。
昨日の夜以前は、あれほど頻繁に二人からのメールが届いていたというのに。
――……どうしたんだ?
頭の中には最悪の予想が浮かび、言い様のない不安が胸中にじわじわと広がっていた。しかし涼正は二人とも忙しいのだろうと思い込むことで誤魔化した。
そもそも、三時間に一通のペースでメールが届いていた事がおかしかったのだ。二人の息子はすでに成人済みで、親が過度に干渉するのはかえって良くない。
涼正は携帯を閉じ、考えを中断させるとリビングへと向かった。
成人男性三人で過ごしていた時は、少しばかり手狭に感じていた家も、涼正一人になると広々としていて寒々しい。今の涼正は風邪をひいて心細いとあって、尚更そう感じた。
身体の芯から冷えるような冷気の漂う廊下を足早に通り、リビングの扉を目の前にした時、ようやく涼正は異変に気が付いた。
――……あ、れ? 電気がついて……。
涼正一人であるはずの家のリビングに明かりが点(つ)いているのだ。勿論、涼正には点けた覚えもないし誰かを招いた覚えもない。
不審に思った涼正が首を傾げていると、中から微かに物音がした。
「っ!?」
ピクリ、と涼正の肩が跳ね上がる。
――……まさか、泥棒?
最悪の想像が、涼正の頭の中を過った。心臓はこれ以上ないくらいに脈打ち、手にはジワリと嫌な汗が滲む。
涼正は、どうすればこの状況を脱せられるのかを必死に考えていた。
――……こんなところで、死ぬのはごめんだ。
長生きはせずとも、少なくとも二人の息子の自立を見届けるまでは死ねない。そう、覚悟を新たに震える拳を握り締めた時だった。
ガチャリ、と前触れもなくリビングの扉が涼正の前で開いたのだ。
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