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第五章 6
身の潔白をわかっているからこそ、涼正は自身が送ったと思われたくなかった。だが、当然の如く四條との取引の事は鷹斗と政臣は知らない。
どう説明すればわかってくれるのだろうか?
涼正はうまく働かない頭で考えるが、答えは出ない。
それを鷹斗は涼正の嘘だと感じたのか、先程よりも強い力で手を掴む。
骨が軋むほど強く握られ、涼正は痛みに眉を寄せた。息子達が持っている生々しい感情をそのままぶつけられる恐怖に、膝が震える。
脅える涼正に、鷹斗が恋人を甘やかすような猫撫で声で囁いた。
「嘘つかなくていいって。見て欲しかったんだろ? 今から、たっぷり見てやるからさ」
「違うって、言って……んっ、ふぁ……!!」
自身を奮い起たせ否定した涼正だったが、呆気なく鷹斗に押さえ込まれてしまった。それどころか、呼吸さえも奪うような深いキスをされて涙が滲んだ。
口内を割り、開くように鷹斗の舌が捩じ込まれる生々しい感触。息子とキスをしているのだと考えるだけで、涼正は頭が沸騰しそうだった。
「い、や……だ……っ、あ!!」
熱で焼き切れそうな涼正の思考の中、禁忌の二文字が赤く点滅を繰り返す。心や頭では駄目だとわかっているのだが、身体がそれを簡単に裏切ってしまう。
元々感じやすい素質もあったのか、先日の一件で内なる欲望を暴かれた涼正の身体は貪欲に刺激を吸収しキス一つでほだされてしまっていた。口内をまさぐられる感触に腰の奥が重く、ジンと痺れ足下に力が入らない。
「……っ、は……何が〝嫌だ〟なんだよ。嘘つき。キスだけで腰砕けそうなクセして」
キスの合間に囁かれた言葉に涼正はカッと体温が上がった。
「違……っ、う……ぁ」
涼正は首を横に振るのだが、鷹斗も政臣も耳を傾けてはくれない。それどころか、ますます深くなるキスに涼正は吐息さえも呑み込まれてしまう。
そのまま食べられてしまうのではないかと、思うほど激しい口付けに頭も体もグズグズに溶かされていく。
悦楽の煉獄に叩き込まれ、熱になぶられる中。親子という一線だけが、今の涼正を必死に踏み留まらせていた。
散々口内を蹂躙され、腫れぼったく感じる唇を涼正は開いた。
「こ、んな……、おかしい……」
正気とは思えない息子達の行動に、涼正は恐怖を感じていた。
息子を愛し、ここまで育ててきた時間は一体なんだったのだろうか?
全て、涼正の独り善がりであったというのならばこれほど滑稽な事はない。うわ言のように「嘘だ」と呟き、事実を受け入れられない涼正に焦れた鷹斗が痛いほどの力で顎を掴んだ。
「黙れよ、噛むぞ。あぁ、痛いのも好きなんだっけ? なんせ、縛られてあんなんだもんな」
「鷹斗っ!!」
画像のことを揶揄するような鷹斗の言葉が涼正の胸に深く突き刺さり、悲鳴のような声が上がった。
攻撃的な色の鷹斗の瞳が、間近で涼正を射竦める。
「何だよ、本当のことだろ?」
痛い目にあわされているのは自分の方なのに、涼正は何故だか鷹斗が傷付いているように感じられた。目の前の茶色の鋭い瞳が寂しそうで、視線が離せない。
息子にそんな表情をさせたくなくて、涼正は不自由な身体を捩りながら口を開いた。
「そ、れは誤解――――」
しかし、全てを言い終わらぬ内に、涼正は言葉を途切れさせた。政臣が涼正を凍えそうな目つきで睨んでいたからだ。
目の前の鷹斗とは似ているようで違う政臣の鋭い瞳に、涼正は身震いする。ただ睨まれているだけなのに、威圧感で息が詰まりそうだった。
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