25 / 80
第五章 7
「何が誤解なんだ? 教えてもらおうか、父さん?」
静かな口調の裏に激しい怒りが透けて見え、涼正は身を萎縮させた。涼正の目の前の政臣は、激情あらわに詰め寄る鷹斗とは違い、表面上は凪いだ湖面のように静かであるはずなのに。今の涼正にとっては、鷹斗よりも恐ろしく見える。
「……っ、政、臣……」
真っ白に近い頭で何とか答えようとした涼正だったが、震える唇は政臣の名前を紡いだだけだった。
不愉快だとでも言いたげに、政臣の薄い唇がつり上がる。
「何だ、答えられないのか?」
「っ、く……」
〝そんな筈がない〟と口に出来れば、どれほどよかっただろうか。しかし、涼正はそうしなかった。
頭に血が昇った状態の二人に言っても聞き入れてもらえない、と諦めていたのもある。それに、何よりも犯された上に写真を撮られたなどこれ以上父親として情けない部分を二人に見せたくはなかった。
こんな行動に出るくらいだ、もしかすると二人は涼正の事を父親と思ってくれていないのかもしれない。それでも、二人を息子だとしか思えない涼正の父親としての意地が邪魔をしたのだ。
「……そうか。なら、俺も遠慮はしない」
そんな涼正の様子を答えられないと判断したのか、政臣が涼正の肩を指がくい込む程に掴み壁へと押し付けた。
「何、言って――……っふ!!」
声を上げる間も無く、噛み付くような口付けが落ちてきた。
鷹斗とのキスで感じやすくなっている口内を掻き回され、擦られ強烈なまでの悦楽を叩き込まれる。
鷹斗と政臣に掴まれたままの手や肩は痛いはずなのに、それすらも快楽のためのスパイスに変わっていく。ゾクゾクとした痺れが背中を這い上がり、涼正の息を乱させる。
「随分と感じやすいんだな?」
政臣に耳朶(じだ)に吹き込まれるように囁かれ、涼正は肌が粟立つのを感じた。
ヌルリと滑った政臣の舌を耳に挿しこまれ、涼正は身体を跳ねさせる。
「ふ、ぅ……っあ、っ」
頭では駄目だとわかっているのに、政臣と鷹斗が触れる部分から発熱していくかのように熱が広がる。
もどかしい刺激ばかり与えられ、涼正は気が狂いそうだった。いや、いっそ気が狂ってしまった方がよっぽどよかったかもしれない。
大事に育ててきた息子二人に押さえ込まれ、好き勝手に身体を嬲られるなど正気の涼正には耐え難い事だ。
――……くそっ!! どう、して……。
あの画像さえなければ、今頃こんな目に遭わずにすんだのだろうか?
自身の迂闊さと爪の甘さに歯噛みする涼正だったが、政臣の手が寝間着のあわせに掛けられ、そんな考えは一瞬にして吹き飛んだ。
「止め、ろっ!!」
ビッ、と破けるような音とともに弾け飛ぶ寝間着のボタン。コンッ、と無機質な音が廊下に響き、数個ボタンが床に転がった。
政臣と鷹斗の前に、涼正の素肌が晒される。
「これを他の男が暴いたのか……気に入らないな」
冷静な政臣には似つかわしくない熱い手が涼正の素肌に触れ、涼正は身体を震わせた。
しっとりと上気し汗ばんだ涼正の肌の上を、政臣の掌が感触を確かめるように滑る。
鷹斗は鷹斗で気紛れのように小さく凝(こご)った涼正の胸の突起に触れては、首筋を擽るように撫でていく。
これが悪い夢ならば、今すぐに醒めてほしい。そう願った涼正だったが、熱い四本の手に身体をまさぐられる感覚はどう考えても夢などではなく、触れられる度に感覚が鋭くなっていく気さえする。
ゆるゆると鷹斗が親指の腹で涼正の唇を撫で上げる中、涼正は潤む瞳を持ち上げ苦し気な吐息を溢す。触れられ過ぎて痺れたようになっている唇を開いて、涼正は身を捩じった。
「んっ、……も、やめ……ッ、うぁ……」
首を横に振る度に、涙が涼正の頬を伝う。二人の前で泣きたくなどないのに、身体は言うことをきかないばかりか、二人からの愛撫に反応し始めていた。
男に犯されている画像を見られ、その上こうやって襲われ、二人の息子に情けない姿を晒している。ただでさえ、惨めなのに。その上、二人に犯されでもしたらきっと自分は立ち直れないかもしれない。
最悪の未来が涼正の頭を過った。
「いや、だ……っ、やめ――」
最後の壁を突き崩されまいと、抵抗を見せる涼正だったが口内に鷹斗の指が突っ込まれ、それは失敗に終わる。
「黙っとけって。ほら、しゃぶれよ」
涼正が歯を立てようとするのを見越してなのか、腕を掴んでいた筈の鷹斗の指が顎の関節を開かせるように掴んだ。
「んッ……む、や……っ」
閉じきれない口の中を鷹斗の指がバラバラに動き、擦っては出るを繰り返す。セックスを思わせるその行為に、涼正は羞恥で顔を赤く染めた。
飲み込みきれない唾液が口の端から溢れ、床へと落ちていく。
「涼正、すっげぇエロい……」
鷹斗の興奮したような囁きが居たたまれない。
一体、自分はどんな顔をしているというのだろうか?
考えたくもない涼正はきつく瞳を閉じる。
「……っ!? ん、……ぅ」
指で上顎を擽るように撫でられ喉の奥まで突っ込まれると苦しさで涙が溢れた。
「あー、もう我慢できねぇ。今直ぐにでも突っ込んでドロドロにしてやりてぇ」
「……ッ!! ひ、や……っ」
そんな恐ろしい鷹斗の言葉に涼正は身が竦み上がった。
涼正の肌を、性そのものを感じさせる熱っぽい視線が焼いていく。
自分の息子は、一体どこにいってしまったのだろうか?
不器用で、それでも優しく甘えたれの可愛い息子がこんな一面を持っていたなど、知りたくなかった。
ともだちにシェアしよう!