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第五章 8

 ぬち、ぬちっ、と口の中を指の腹で擦られ、押され鷹斗に触れられた部分から性感帯へと変えられていく。  性急なその動きに、息をすることすら難しい涼正は頭を振って逃れようとする。酸素を求め胸を喘がせる度に鷹斗の指を吸うはめになり、濡れた音が響いた。  聴覚がぼんやりと政臣の声を拾う。 「……鷹斗、先走るな。少し待て」  政臣によって鷹斗の指が涼正の口内から引き抜かれ新鮮な空気が一気に肺に雪崩れ込んでくる感覚に目眩がした。 「わかってるよ。別に傷付けたいわけじゃねぇし」 「ならいい」  素っ気なく返した政臣の腕が再び涼正の肌の上を蠢き始め、否応なしに涼正の意識はその動きに集中していく。  肌を擽るように撫でられたかと思うと時折形のいい爪で軽く引っ掻かれ、小さな痛みを残す。決定的な刺激は与えられず、長引かせるような、そのもどかしい降れ方に腰が揺れた。  息子達にそんな様子を見られているかと考えると、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。  ぬるり、と涼正の唾液で濡れそぼった鷹斗の指が唇を撫でる感触が生々しい。まるで別の生き物のように意思を持って動くそれに、きつく閉ざそうとしていた唇を割られ舌を撫で上げられる。  とろけ、涙や唾液で濡れた涼正の顔を見て満足げに笑う鷹斗が、政臣に視線を向けた。 「最初は俺に突っ込ませろよ?」   牽制するような響きの声に、政臣の眉間に皺が刻まれる。 「わかったから。お前も少し黙ってろ」  聞き分けのない弟に言い聞かせるような優しさはないものの、鷹斗にしてはそれで十分だったらしい。  渋々といった様子だが、鷹斗は頷いた。 「チッ、仕方ねぇな……。しっかし、寒くないかココ?」  涼正の口内を尚も蹂躙し続ける鷹斗が、ふと、政臣に話をふった。  室内に居たとあって、涼正も二人も厚着ではない。いや、涼正にいたっては唯一身に付けていた寝間着すら、前を破かれて簡単な防寒すら出来ていない状態だった。  冷たい空気と、熱い手に触れられて全身に鳥肌が立つ。  そんな涼正の様子に気付いた政臣が、ピタリと手を止めた。 「そうだな、移動するか」 「あぁ、どうせなら涼正の寝室でヤろうぜ」  肯定的な兄の意見に唇を吊り上げた鷹斗は、よりにもよってとんでもない場所での行為の再開を提案してきた。  犯されるのも嫌だが、唯一気を抜けるプライベートな空間を壊される気がして涼正はがむしゃらに暴れる。 「や、……離せっ!!」  二人が涼正の体をなぶるのに集中していたお陰で、手足は自由になっていた。  振り上げた手が壁にぶつかるのも気にせず、兎に角二人から逃れようと涼正は必死だった。しかし、病み上がりで体力の戻っていない涼正が、体格でも体力でも涼正に勝っている二人に敵うはずもない。  振り上げた手は政臣に早々に掴まれ、壁に強く押し付けられる。 「あんまり暴れるな。画像みたいに縛るぞ?」  冷静な政臣にしては珍しく怒りの滲む双眸に睨まれ、涼正の喉からひきつれた声が絞り出された。 「ひっ……」  なによりも、骨が軋むほど強く押さえ付けられた腕が政臣の本気を物語っていて、涼正の背中を冷や汗が流れる。  涼正の知っている政臣は、常に冷静で。感情を荒げる姿など殆んどと言っていいほど見たことがなかった。  親としては息子の人間らしい一面を見れて嬉しいと思うべきなのだろう。が、涼正は状況が状況なだけに喜べずにいた。なんせ、その怒りを向けられているのは自分なのだ。  手をきつく握りしめ、理不尽な政臣の怒りを受け止めている涼正の耳に鷹斗が囁きを残していく。 「おー、怖っ。涼正、兄貴のこと怒らせない方がいいぜ? 本気で縛る気だからさ」 「……っ」  この場では誰も自分を助けてくれはしないのだと、暗に言われたような気がして涼正は絶句した。  頭の何処かで、まだ自分が本気で嫌がれば行為を中断してくれるかもしれない。そう、甘く考えていた。  息子達は本気で自分が嫌がることはしない。と、こんな目にあってもまだ涼正は信じていたのだ。  それが、たった今。完璧に打ち壊された。  立っていられないほどの衝撃に、涼正は足元から崩れ落ちた。  これから二人に寝室に運ばれるのだとわかっていても、足が重く。動くのすら億劫だ。  政臣と鷹斗に腕を引っ張り上げられる感覚すら遠い。  このまま、自分はどうなってしまうのだろうか?  涼正の脳裏には、幼い頃の鷹斗と政臣と手を繋ぎ自宅までの帰り道を歩いた光景が思い出された。  手を繋ぐ事も、もう無いと思っていたのに望んでもいなかった形で叶えられるなんて。ズルズルと引き摺られるようにして寝室に運ばれる中、涼正は家族という形がガラガラと崩れていく音を聞いた。

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