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第六章 5

 暫くして、食後の珈琲を涼正を膝に乗せたまま楽しんでいた鷹斗が「さてと、飯も食ったし……」と口を開いた。鷹斗が背を反らして大きな伸びをしたせいで、支えを無くした膝の上の涼正の体がグラリと揺らぐ。 「っ、ぅ……」  慌てて落ちないように鷹斗に掴まった涼正だったが、腰とは別に後ろに走った鈍い痛みに小さく顔を歪めてしまう。 「……どうかしたか?」  目敏、涼正の表情の変化に気が付いた鷹斗が、心配そうに涼正に尋ねた。  優しくしないでくれ、と喉まで出掛かった言葉を押し込めると涼正は首を横に振り「いや、……何でも、ない……」と平静を装いながら答えた。  しかし、先程痛みを感じたせいで意識しないように努めても、どうしても気になってしまう。気にすれば気にするほど、ソコが腫れているような違和感がする。それに、我慢できない程ではないが小さな痛みが絶えず涼正を襲っていた。  涼正は眉を寄せながら、ただ体があまり動かないようにジッとしておくしかなかった。けれども、いつまでもそうしている訳にもいかず。部屋に戻るからと鷹斗に再び横抱きにされた瞬間。痛みがあの場所に走り「……い、ッ……」と、小さく呻いてしまった。  しまった、と口を塞いだ涼正だったが既に遅く。鷹斗の薄茶けた瞳が、涼正の方をジッと見ていた。 「……痛むのか?」  そう問われ、寝間着の上から後ろを指で軽く押されると、違和感と痛みが酷くなり涼正は鷹斗の腕の中で体を跳ねさせた。  ここまでくると誤魔化しはきかない。それに、鷹斗は愚鈍な男ではないから、気付かれてしまったはずだ。恐々と涼正が視線を上げ鷹斗を見ると、怒ったような表情をしていた。 「まったく……、何で言わねぇんだよ」  鷹斗の声が、涼正の鼓膜に突き刺さる。悪いのは自分ではないのだが、思わず涼正の口が「……ごめん」と動いていた。  ――いや、俺は何を謝っているんだ。  冷静になって考えると、悪いのは明らかに行為を強要した鷹斗と政臣であって、涼正が謝る必要性はどこにもない。  自分でとった行動だがその不可解さに首を傾げていると、拗ねたような口調で鷹斗が呟いた。 「俺って、そこまで信用ないのかよ」 「本当に、ごめ――」  最早条件反射のように謝罪が口からするりと溢れた涼正の頭を、軽く鷹斗が小突き遮った。 「そんな顔すんなって。次、そんな顔したら襲うからな」  鷹斗の口調は軽く、冗談だとわかる態度であるのに。昨日の光景が涼正の脳内に甦り、顔が引き攣る。体が無意識に後ずさろうとするも、鷹斗の腕に抱き抱えられているのだから出来る筈もなく。涼正は鷹斗の腕の中で体を縮こまらせ、俯いた。 「さてと、痛むんなら薬塗っといた方がいいな」 「い、いいっ。塗らなくていいから!!」  ゆっくりと立ち上がる鷹斗に大人しく抱えられていた涼正だったが、鷹斗の一言に不穏な気配を感じブンブンと勢いよく頭を横に振った。  昨日の事は無理矢理でどうすることも出来なかったが、今は状況が違う。それに、涼正自身でも普段触れないような部分を改めて見られる事に抵抗があった。 「けど、痛むんだろ?」 「そ、れは……」  涼正は、言葉を濁らせた。確かに鷹斗の言う通りで、微かだが不快な痛みがジクジクと涼正を苛んでいる。恐らく、放っておいても治るとは思うのだが、場所が場所であるだけに涼正は不安も感じていた。  そんな涼正の不安を、鷹斗は見抜いたのかもしれない。  「いいから、任せとけって」と強引に涼正を抱え部屋に向かって歩き出す鷹斗に、涼正は手足をばたつかせ抗議したのだが、力で勝てるわけもなく。結局、涼正は部屋まで運ばれてしまった。

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