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第六章 6

「さ、着いたぜ」  鷹斗によって、ゆっくりと。まるで壊れ物を扱うような手つきでベッドに下ろされた涼正は、逃げ場を探すように視線をさ迷わせていた。危機感からか、声も心なしか震えていて、その両腕は自身の身を守るように身体を掻き抱いている。 「……な、なぁ、やっぱり……」  治療をどうにか断りたい涼正は小さな声でそう切り出したのだが、鷹斗に鋭く睨み付けられすぐさま口を閉ざした。 「いらないってのは、無しな。ほら、服脱がすぞ」  鷹斗がベッドの上に乗り上げ、ギシリと軋んだ音が鳴り、涼正の肩が跳ね上がる。昨日の一件で、ベッドの軋みすらトラウマになってしまっていた。  薬の入った軟膏らしき物を片手に距離を詰めようとする鷹斗から、涼正の体が逃げる。尻をつけたままズリズリと後ろに後退ろうとするのだが、すぐに限界が訪れた。  トン、と背中に壁がぶつかる感覚に涼正は自身が追い詰められた事を知る。目の前に迫る鷹斗の顔にはネズミをいたぶる猫のような残酷な笑みを浮かべていた。 「じ、自分で出来る……。だから、……薬だけ……」  まるで獰猛な肉食獣を相手しているかのように体を固まらせながら、涼正は交渉を試みたのだが。鷹斗は、初めから応じるつもりはないらしい。  ヒョイ、と薬を持つ手を背に隠して涼正から遠ざけると、鷹斗が色素の薄い茶色の瞳で涼正を見下ろしてくる。 「見えない部分にどうやって薬を塗るんだよ。出来ないだろ?」 「そ、れは……」  まったくもって、鷹斗の言う通りだった。ただでさえ見えない上に、触れることすら躊躇うような場所なのに。そこを触診して薬を塗るなど、涼正にはハードルが高すぎる。しかし、だからといって鷹斗に触れられるのも、涼正にとっては嫌でしかないのだが。  考え込む涼正に痺れを切らしたのか。鷹斗が距離を詰め、涼正が背を預ける壁を薬を持っていない方の手でドン、と叩いた。 「つべこべ言うんだったら、マジで犯すぞ」 「ッ!! わ、わかった……」  間近にある瞳からは本気さが窺えて、涼正は悲鳴を上げそうになった。喉まででかかったそれを何とか呑み込むと、何度も頷いた。  不本意で仕方がないが、無理矢理犯されるよりは随分マシだ。などと考えていた涼正だったが、所詮甘い考えだったことを直ぐに思い知らされる。 「じゃあ、早くズボン脱げよ」  鷹斗が何でもないことのように告げた要求に、涼正は目を剥いた。無意識のうちにパジャマの袷を握った手が小刻みに震える。 「そんなの、出来るわけ……」  泣きそうな声で訴えた涼正だったが、鷹斗は無慈悲にも冷たい視線を投げ掛けるだけだ。 「痛いままでいいわけ? それとも、痛いまんま突っ込まれるのが好みとか?」  嘲笑とともに鷹斗にそう言われ、涼正の顔にカッと血が昇った。 「ち、違うッ!!」  叫ぶように答えた涼正だったが、それが失敗だったとすぐに気付いた。クッと鷹斗の口角がつり上がる。まんまと鷹斗の策に嵌められた瞬間だった。 「なら、出来るよな?」 「ッ、う…………」  躊躇う涼正だったが、威圧的な瞳でジッと見下ろされるという状況に耐えきれず、ゆっくりとズボンのウエストに手をかけた。  ――どうして、俺がこんな目に……。  怨み言をぼやいてみても、現状が変わるわけでもない。涼正は気持ちを奮い立たせると震える指でゆっくり、ゆっくりと下げ。ほどなく、涼正の穿く灰色の下着が顔を覗かせた。  足首までズボンを下ろした涼正はあまりの羞恥心にギュッと目を閉じ、下着を下ろしにかかった。そのまま一息に下着を足首まで落とすと、赤く染まった顔を背けながら言い捨てた。 「っ、……脱いだ……ぞ」  何も纏わない下肢が冷たい空気にさらされ、萎えた涼正のペニスが更に縮み上がるようだった。  たかが布一枚、されど布一枚。ないだけで、ここまで心許ないとは。 「じゃあ、そこで四つん這いになって尻だけ高く上げろよ」 「っ、そんなの――」  〝出来ない〟と続ける筈だった涼正の声は静かだが怒気を孕む鷹斗の声に遮られ、消えた。 「無理って? なら、犯すだけだ」 「くっ……」  涼正は唇を噛み締め逃げ出したい気持ちを堪えると、羞恥に震えながらシーツの上に膝をついた。堅く瞳を閉じ、シーツをきつく握り締める涼正の背後で鷹斗の気配だけを濃く感じる。 「いい眺めだな。ほら、涼正、もっと脚開いて。それじゃあ、触診出来ねぇし」  腰だけを高く上げた姿勢で、涼正の萎えた性器だけではなく、更にその奥の秘所まで見られているという羞恥が涼正の顔を歪めさせ、体を赤く染めていく。 「ッ、く……」  噛み締めた唇から、悔しげな声が漏れた。早く終わってくれと祈るように涼正は頭をシーツに押し付けたまま、鷹斗の指示に従った。 「……ッ!?」  ヌルリ、と滑った感触が涼正の後孔に触れ、その冷たさと気持ちの悪さに涼正は肩を跳ねさせた。縁をなぞるように周りに薬を塗りたくられ、体温で溶けだしたそれが双丘の谷間を滑りシーツへと滴り落ちる。  薄い尻の肉を掴まれ、割り開かれた奥が鷹斗の吐息がかかる度にヒクリと震えてみせた。 「……ん、充血はしてるが切れてはいないみたいだな」 「……う、ぅ……」  縁をくすぐるように動いていた鷹斗の指先が、中に潜り込んでくる感覚に涼正は小さく呻いた。  昨晩、指よりも大きい物を受け入れたこともあってか。涼正のソコは大した抵抗もなく鷹斗の指をぬぷり、と飲み込んでしまった。ピリリとした小さな痛みが走り抜けるのは、ほんの一瞬。慣らされた後ろは鷹斗の指に絡み付き奥へと誘うような蠢きを見せ、涼正を動揺させた。  ――っ、嘘だ……。  男を受け入れる体に変えられてしまったという事実が涼正を打ちのめし、滲んだ涙が顔を押し付けたシーツへと吸い込まれて消えていく。 「中は……まぁ、流石に腫れてるな」  鷹斗の指が中をグッ、と押し拓くように動く。視線に晒されたソコが浅ましくヒクつく様子を見られているのかと思うと、涼正は頭が焼き切れそうだった。

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