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第六章 7
「……ふ、……ぅ」
短い嗚咽が、涼正の口から溢れた。熱い涙が次から次に流れ、シーツを濡らしていく。
――どうして、こんな事に……。
ついほんの数日前までは、〝普通〟の仲が良い家族だったのに。あの男。四條に出会ってしまってから、全てが壊れてしまった。
――全部、全部……あの男が……。
ドロリ、と黒く濁った感情が涼正の胸の内で渦巻いた。しかし、鷹斗の指が後ろから抜け出る際に熟れた中を摩擦され、甘く痺れるような感覚にそんな感情も霧散してしまった。
今は、何よりもこの感じやすくなってしまった涼正の身体が一番恨めしい。シーツに顔を埋めた涼正は悔しさと後孔に与えられる刺激に顔を歪ませ唇を噛み締める。
「中にも塗っとくな」
そう言って一度外に出た鷹斗の指が、今度はヒヤリとした薬を伴って後ろへ潜り込んでくる。その生々しい感覚に、涼正は耐えきれず声を上げた。
「……ん、ぁ……ッ」
待ち兼ねていたような、甘ったるい鼻にかかった声が涼正の羞恥と後悔を誘う。
指が動く度に中で溶けだした薬がグチュ、グチュッ、と淫らな音を立て涼正を耳からも苛んだ。抜け出ては、薬を纏って後ろを押し拓き。執拗とも言うべきほど丹念に中を指の腹で擦り立て、塗り込められる。
たまにある一点を押されると、膝から崩れ落ちてしまいそうな程の快感が涼正を襲った。
「……っ、ぅ……ッ」
薬を塗られているだけだ、と自身に言い聞かせながら涼正はシーツを握り締めて必死に耐えるしかなかった。
体温で温められ液化した薬が双丘の狭間を伝い、涼正の性器や太ももをヌルリ、と塗らしていく。焦らされているような微弱な快楽に頭よりも高く上げられた涼正の腰がもどかし気に揺れた。気を抜くと足を閉じ、擦り合わせたくなる。
ヌルリ、と中に指を挿しこまれ掻き回されると、身体の中心に熱が集まっていくのを涼正は感じた。鉤型に曲げられた指先が熟れた中を引っ掻き、押し広げるように動かされると一層大きく濡れた音が室内に響く。
涼正は聞きたくないとばかりに頭をベッドへと押し付けた。自身の普通濡れる事がないソコからそんな音がしているなどと、信じたくなかった。
「薬塗られて感じるとか……この淫乱」
嘲るような色を含んだ囁きが、熱い吐息と共に涼正の耳朶に吹き込まれる。いつの間にか涼正に覆い被さるような姿勢で、鷹斗が背後に立っていた。外耳をベロリ、と嘗めあげられたかと思うと尖った犬歯で軽く噛まれ涼正は嫌だとばかりに頭を振った。
感じてなどいない、と否定できればどれ程よかっただろう。しかし、濡れた舌を耳へ挿しこまれ、嘗められながら中を指の腹で愛撫されると、浮き上がった腰が震えた。
熱くて、苦しくてたまらない。
「ほら、涼正の……触ってもねぇのにガチガチだぜ?」
鷹斗の揶揄する声が耳朶に直接響き、涼正の心を揺さぶった。信じたくない涼正だったが、動揺して咄嗟に目を開けて腕の間から自身の下肢を確認してしまう。
「ッ!!」
視界に映ったのは、首をもたげまるでそれ自体が意思を持ち生きているかのようにピクピクと脈打ち、先から粘度のある蜜を溢す涼正のペニスだった。
――嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ……ッ!!
悪夢から逃れるように、涼正はキツく瞳を閉じ頭を振る。けれども、瞼の裏には先ほど目にした自身の赤く色づき、張りつめた様子が鮮明に映り離れない。
淫猥なほどに、赤く熟れた色。トロリと蜜を溢す度に先が開閉をするその様子は、まるで何かをねだるかのようで。自身の淫猥さを呪いたくなると同時にズクリ、と腰の奥で燻るような熱も涼正は感じていた。
「ダラダラよだれ垂らして……すっげぇ、エロい。あー、突っ込みてぇな」
鷹斗の色を纏った声が、涼正を更に追い詰める。布越しに堅い鷹斗のモノが涼正の後ろに押し付けられ、その逞しさと貫かれた時の狂おしいまでの快楽の予感に身震いした。
「い、嫌だ……」
涼正は、涙を溢しながら頭を振る。鷹斗のモノを挿れられてしまったら、快楽に弱い自身の体が昨日のように流されることを選ぶのは容易に想像できたからだ。
グイグイと押し付けられる堅いモノに、涼正の腰が逃げそうになる。しかし、鷹斗の腕によって拘束されている涼正はこの場から逃げ出すことも出来ない。
「……薬塗ったばっかだし、今日はもう突っ込まねぇよ。ただ――――」
鷹斗の熱い吐息が涼正の頬を撫でたかと思うと、次の瞬間。涼正の体は鷹斗の手によってひっくり返され、仰向けの状態でベッドの上に転がっていた。
「――ッ!?」
汗ばんだ背中に先程まで握りしめていたシーツが貼り付き気持ちが悪い、などと思う暇もなく、鷹斗の手が涼正のペニスへと伸びる。
「う、ぁ――――ッ!!」
猛りきったソコを急に暖かな鷹斗の手が包み込み、涼正はシーツの上で背を弓なりに反らせ、喘いだ。電流が腰から頭にかけて駆け抜けたようで、体が意思とは関係なくブルブルと震える。
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