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第一章 8

 暑いのか、寒いのか。気持ちが良いのか、悪いのか。そんな曖昧な、漠然とした感覚の中に涼正の意識は漂っていた。  視界は靄がかかったようで、ユラユラと揺らいで現実か夢か、涼正には判別がつかない。 「……涼正、大丈夫か?」  労るような優しい声が涼正の名前を呼び、額に貼り付いた髪を骨ばった指でそっと払う感覚に涼正は身を捩った。  ぼやけた視界の先に同じ様にぼやけた政臣の顔が映りこむ。  ――……ああ、コレは……夢かもしれない。だって、政臣が……俺を、〝父さん〟以外で呼ぶはずが、ない。  鷹斗と違い、政臣は小さな時からどんなことがあっても涼正を〝父さん〟としか呼ばない。それが涼正にとって普通であったし、これからも変わらないと思っている。    ――では、自分はどうしてこんな夢をみているんだろうか?  鈍い痛みのする頭で考えたものの、明確な像を結ぶ前にパッと霧散してしまい、答えが出ない。  頭の中で散ってしまった考えの名残をぼんやりと追っている涼正の頭上で、ふっと政臣が笑う気配がした。 「……きちんと身体を拭かないと、風邪をひくぞ?」 「……っ」  突然柔らかな物に一糸纏わぬ肌を撫で上げられ、涼正はピクリと身体を震わせた。  鼻を擽るのは甘い洗濯洗剤と柔軟剤の香り。柔らかな感触からしてタオルだろう。それを片手に持った政臣が、タオルから無意識に逃れようとする涼正の肩を掴まえる。 「ほら、動くな」  優しい声でたしなめられ、涼正はムズムズとした居心地の悪さを感じた。  夢だとしても、裸身を息子に拭いて貰うのは気が咎める。  ――……というか、どんな夢を見てるんだ……俺は。  夢は深層意識のあらわれとも聞くが、いくらなんでもコレはない。  欲求不満だったとしても、もっと違う人選があっただろうに、と涼正は自身の運の悪さを呪いながら政臣の手を押し返した。 「……自分で出来るから」 「いいから、俺にさせろ」  間髪いれずに返ってきた言葉と熱い、射抜くような視線に涼正の手から力が抜けたのを政臣が見逃すはずもない。  「あっ」と涼正が小さく声を上げた時には、政臣によって両腕を頭の上で一纏めにされ、シーツの上に縫いとめられてしまった。  涼正の身体の上に覆い被さった政臣が、唇の端を持ち上げ、笑う。 「そのまま、いい子にしてろ」 「何する……っ、あ!?」  〝つもりだ〟と続けようとした所で涼正は政臣に胸の尖りを指で押し潰され悲鳴に近い声を上げた。 「政臣、やめ……ッ」  涼正の制止の声も虚しく、政臣はしっとりと上気した肌の感触を掌で味わうように触れてくる。  鎖骨から胸筋にかけて指で辿り撫でたかとおもうと、まだ硬さももっていない乳首をわざと避け焦らすように乳輪をなぞっていく。  自分の夢なら、思い通りになってくれてもいいじゃないかと歯噛みしていた涼正だったが、政臣の慣れた手つきに早くも翻弄され始めていた。 「ッあ……、ふ……」  噛み締めた筈の唇から鼻にかかったような甘い声が漏れ、涼正は死にそうなほど恥ずかしくなった。  いくら夢の中といっても、どこの世界に息子の手で喘ぐ父親がいるだろうか。  ――……やめさせ、ないと。  そう思うのに、政臣によって呼び起こされた快感に支配された身体は涼正の思いを裏切り、昂りを見せ始める。  政臣の手の動きは肌を擽るような軽いものであったが、確実に涼正の内側に燻っていた情欲に火を点けていたのだ。 「涼正、声を殺すな……」  政臣の欲に濡れた声にゾクリと背筋が震えた。  涼正の唇の上を政臣の指が動くだけで、罪悪感を上回る快楽が脳髄から痺れさせ、思考を溶かしていく。  自分の中に、まだこんなにも生々しく、熱く爛れるような欲が眠っていたなんて、涼正は知らなかった。  もとからそこまで性欲が強い方ではなかったし、子育てに仕事にと、忙しい毎日を過ごしていたこともあってこのまま枯れていくのも悪くないと思っていた。しかし、実際はどうだろう。  夢でのことだとしても今、自分は息子に組み敷かれ、内側に巣食う熱を暴かれた上、引きずり出され。  その狂暴な熱さに浅ましくも身を悶えさせているのだ。  吐き出す息が熱く、気が触れそうになる。本来、涼正は特別感じやすい方ではなかったはずだ。両胸の突起も、〝あっても無くても困らないもの〟くらいの認識しかなかった。  しかし、今は政臣の指が胸の尖りの側を掠める度に、「ソコじゃない。ちゃんと触れてくれ」と懇願しそうになるほど、痺れ、むず痒くて堪らない。  もし、政臣に両手を拘束されていなかったら自身の手でソコを弄っていたかもしれない。 「ッあ……、も、いや……だ」  涼正は艶めかしい声を上げ、弱々しく頭を横に振った。弱い刺激にばかり慣らされ、熟れた身体は明確な、強い刺激を求めて震える。  狂おしいほどの熱に身体中を苛まれ、おかしくなりそうだった。 「……触って、くれ……ッ」  涼正は、ヒクリと喉を震わせ懇願を口にした。    上から涼正を見下ろす政臣の瞳に愉悦の色がまじった。 「……どこを?」  意地が悪い質問だ、と涼正は思った。  政臣の下の涼正の身体は一糸纏わぬ姿で。勃(た)ち上がり鈴口から蜜を溢す涼正の雄も、触れられることを期待し尖りきった乳首も、とうぜん政臣の目には見えているはずだ。  それでも、涼正の口で言わせたいのだろう。先を促すように顎の下を擽られ、涼正は口を開いた。 「……ッ、俺の……に、触って……」  涼正が完全に快楽に屈服した瞬間だった。  あとはもう、なし崩しだった。  快楽に屈服した涼正は素直に快感だけを追い求め。  そして、求められるがまま喘いだ。  政臣も涼正の手を拘束する必要がなくなったと判断したのか、その手は胸の飾りを引っ張り上げ、もう片方で涼正のペニスをゆっくりと扱き上げる。  にちゃ、と粘着質な水音が肢下から聞こえ、その淫猥さに更に煽られた。  グリッと一際強く、鈴口部分を政臣の指に抉られ、涼正は背を仰け反らせ、健康的で艶やかな肌色の喉を晒しながら唇を開く。 「……ッ、ふ……あ」  掠れた甘い声が溢れ、強すぎる快感に浮かんだ涙が目尻を濡らし、目元を赤く染めた。  シーツを握ることも出来たのだろうが、そうはしなかった涼正の手がすがるように政臣の背中に回される。  まるで、喘ぎと連動するかのように動き、爪で小さな赤い引っ掻き傷を残していく。 涙で滲んだ視界の中、自分を見下ろす政臣と視線が絡んだ。 「気持ちいいか?」 「あぁッ、……や、も、それ……やめ――ッ!!」  「あぁ」と続けようとしたのだが、政臣の手が亀頭を捏ね、鈴口から溢れ出る先走りを掻き出すように親指を動かしたことで、涼正の口から悲鳴に近い声が上がった。  ビクンと身体が魚のようにシーツの上で跳ね、痺れるような甘い感覚が腰を中心に拡がって、ペニスの根本から熱が込み上げてくる。 (ようやく、……解放される)  この身を苛む熱を吐き出したいという欲求に身を任せるように目を閉じた涼正だったが、唐突に根本をきつく握られ、出せない苦しさに眉根を寄せて呻いた。 「ど、う……して……」  思わず涼正の掠れた声に、責めるような色が滲む。  政臣の顔を睨み付けようと瞼を持ち上げるも、目の前の顔は政臣とは似ているものの違うものだった。 「鷹、斗……?」  涼正が唖然とした表情で呟いた名前に、目の前の男――鷹斗がクッと唇を吊り上げる。 「……まだ、イクのは早いだろ。俺とも楽しもうぜ、涼正」  そう言うなりに、掴んでいたペニスを上下に扱き上げた。 「ひっ、あ、ぁ――……ッ!!」  強すぎる快楽に頭の中が焼ききれそうだ。  涼正の喉からはひっきりなしに喘ぎ声が溢れ、吐き出せない苦しさで身体が限界を訴え痙攣する。 「おい、鷹斗。一回出させてやれ」  チカチカと明滅する視界では、最早使い物にならず、代わりとばかりに研ぎ澄まされた聴覚が政臣の淡々とした声を拾った。  兄から注意された鷹斗は面白くないとばかりに、その端整な顔を歪ませる。 「兄貴ばっかり楽しんでズルいだろ、俺にも涼正と遊ばせろよ」  不満そうな鷹斗の声に、「俺は玩具じゃない」と言えたらどれほどよかっただろうか。鷹斗に与えられる刺激で胸を喘がせながら、涼正は出来もしないことを考えた。  政臣の背から落ちた手が、指が白くなるほどシーツを強く握り締める。  ――……も、苦し……い……。  助けを求めるように、涼正は涙で潤む瞳を政臣と鷹斗に向けた。小さく二人が息を呑む気配がした。 「遊ぶのは構わないが、このままじゃ涼正が苦しそうだ」 「……わかったよ」  渋々と言った感じの鷹斗の声が聞こえ、根本を戒めていた手がゆっくりと離れる。 「あっ――……はぁ、ッ……!!」  その刺激ですら、涼正は感じてしまいシーツの上で身体を波打たせた。  ――……イき、たい。  頭の中で膨れ上がる欲求に、カラカラに渇いた喉が上下に動き唾液を飲み下す。あと少し刺激があれば達することが出来る。  もどかしいほどにゆっくりと。涼正の手が自身の雄に向かって伸びるも、最後の最後で理性が邪魔をして触れられない。 「……ッ、鷹斗、政臣……」  甘い、ねだるような声が涼正の唇から出た。 目の前の二人の男の瞳に明らかな欲情の色が浮かんだ次の瞬間。 「ほら、イけ」 「たっぷりとイケよ」 「ッ――ァ……ア、アぁッ!!」  両乳首を政臣に捏ねるように押し潰され、ペニスを鷹斗に裏筋を押すように一気に扱き上げられた涼正は喉を仰け反らせ叫び、腰を突き出すようにして大量の白濁を吐き出し、意識を飛ばしたのだった。

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