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第四章 4

「……りょ……、く……」  水の膜一枚隔てた向こう側から呼び掛けられるような、ぼんやりとした感覚の中に涼正はいた。  ――……誰、だ……? 「……涼、……せ……ん」  涼正を呼ぶのは、政臣や鷹斗とは違う男の声だ。  もっとはっきり聞きたくて、涼正は水の膜を破ろうとするように手を動かそうとして――違和感を感じた。まるで、両手両足が縛られているように動かないのだ。  冷や水をかけられた時のように急速にクリアになっていく意識が、涼正を呼ぶ声をはっきりととらえる。 「涼正君?」 「っ!?」  あの男――四條の声だとわかった瞬間、涼正はパッと目を開けた。ぼんやりとする視界の中、四條が涼正を見下ろしている。  ――……どう、なってるんだ…? ……確か急に眠くなって……。  涼正は状況についていけていない頭を何とか動かし、途切れ途切れの記憶を思い出し、繋ぎあわせていく。  ――……部屋に入って、携帯を返してもらって、……緑茶を飲んで……。  どうも緑茶を口にした辺りから記憶がない。しかし、涼正は緑茶の中に変なものを入れた覚えはまったくなかった。  だとすれば、それが出来るのは涼正以外で、その時その場にいた人物になる。 「――ッ!?」  目の前の四條が急に恐く感じた涼正は、距離をとろうとした所で固まった。まるで、などと思っていたが、本当に涼正の両手両足は応接用テーブルの足に縛り付けられていたのだ。  しかも、それだけではなく涼正が動かせる頭だけを上げ見下ろした応接用テーブルの上の自身の身体は服も何も纏っていない裸体だった。 「これは、何のつもりだ!!」  動かない四肢を無理矢理バタつかせながら涼正は吠えた。  しかし、四條は「ちょっとした戯れだよ」と喰えない笑みを浮かべるばかりで、真剣に答えようとしないばかりか。  クッと唇を持ち上げると、涼正の身体へと触れ始めた。 「やめ、ろ……触るなッ!!」  触れられる度に体に走る悪寒と気持ちの悪さに涼正は激しく頭を横に振る。 「ふふっ、最初はそうだろうね。でも、じきに君から触ってくれとねだるようになるよ」 「なる、もんか――……あぁッ!!」  愉しげに涼正に触れる四條をキッと睨み付けた瞬間、潰されるかと思うような強い力で乳首を捻られた涼正は悲鳴を上げた。  テーブルの上の体が痛みにのたうち、生理的な涙が溢れる。 「あぁ、すまないね。もう少し優しくするべきだったかな?」  涼正が抵抗できないこといいことに、四條が涼正の頬を流れる涙を舌で拭いとり、笑った。  それと同時に乳首を捻っていた指が外され、今度は指の腹で優しく揉みこまれ、そこからジンとした痺れが広がって、涼正を戸惑わせた。  ――……な、んだ……これ……。  むず痒いような、なんとも言えない刺激に涼正の体が震える。 「やっぱり、優しい方が好きみたいだね」 「……なッ、違――うぁ……ッ!!」  〝違う〟と否定しようとした涼正だったが、再び強い力で乳首引っ張られ、口にした言葉は途中で悲鳴に変わった。 「ふふっ、もう痛くされないと思ったかい?」  四條が涼正の乳首を引っ張っていた手を離しながら、そう囁いた。  せきとめられていた血流が一気に先端へとなだれ込み、芯を持たなかったそこを硬く尖らせていく。 ――……く、そ……ッ!!  口を開き四條に罵声の一つでも浴びせたいのに、親指と人差し指で乳首をやわやわと摘まれると変な声が出そうになり、涼正は慌てて歯をくいしばった。  痛みを与えられたかと思えば、優しく揉み、撫でるを繰り返され、いつの間にか涼正の身体は痛みを快楽と勘違いして受け取るようになっていた。 「あぁ、可哀想に。真っ赤になってしまったね」  可哀想にと口にする癖に、四條の手は触れるのをやめようとしない。  寧ろ、執拗にソコばかりを弄り続ける。 「……ッ、……ぁあ……」  涼正は直接的な刺激には程遠いものの、腰を中心にじんわりともどかしい熱が広がっていく。  眼下に見える、女性とは違って膨らみのないなだらかな胸。  涼正のそこに、勃ちあがった突起がプクリと熟れた色をして存在を主張していた。 「……う、……ぁ」  信じたくないとばかりに涼正は自身の胸から視線を逸らし、頭をふった。  男に触られ、女にするような愛撫を受け、反応し乳首を勃たせている自分が惨めだったのだ。  そう思ったら、もう駄目だった。みっともないと思うのに壊れてしまったかのように弛んだ涼正の涙腺からは涙が次から次に溢れ、頬を伝い流れ落ちていく。 「……ッ、ど……して」  涼正の口から、嗚咽混じりの声が出た。 「理由なんてどうでもいいじゃないか。今、君は私の愛撫を受け、感じ、よがっている。その事実さえあれば十分だろう?」 「……ふざけっ――ぅ、ああッ!!」  〝ふざけるな〟と怒鳴る筈だった涼正の声は甘い叫声にかわった。  指とは違う感触が、弄られ過ぎて敏感になった涼正の左の突起をくるみこむように触れたのだ。  恐る恐る、涼正が視線を下げた先。四條が涼正の胸元に顔を埋めていた。  ――……舐められ、て……。  四條の舌が涼正に見せ付けるように突起を舐め上げる。唾液に濡れそぼったそれは、赤く、酷く淫猥で、涼正は嫌なのにそこから目が離せない。  厚い四條の舌が突起を押し込むように抉り、飴玉をしゃぶるように舐め上げる。 「は、ぁッ――……ぁ、あぁ……」  その度に涼正はテーブルの上で体を跳ねさせ、薄い胸を喘がせた。  四條の口技は巧みだった。上下の唇で突起を挟むと苦痛と紙一重の刺激を与え、離し、ねぶるように舐める。 ちゅぷッ、ちゅく、と卑猥な音を立て嬲られ、涼正は頭が沸騰しそうな程の羞恥に襲われた。

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