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時が満ちれば 6

「さぁこっちへ来い」  寝所の隣室は近衛隊の控えの間になっている。此処にはいつもならば交代要員の近衛隊の部下がいるのに、今日は赤い女が王様を診察するのを見られないように人払いをしたことを後悔した。  なんてことだ。今、ここには王様、赤い女、ジョウ、そしてキチと俺しかいないなんて。俺が抗えば全てが明るみに出てしまう。悔しい……理不尽だ。唇を噛みしめて俯く俺の腕をキチは掴み、強引に控えの間へ押し込む。 「うっ……やめろ! このようなことは」 「知ってるんだぞ、前王とお前の関係をすべて。唇を奪われる位、大したことじゃないだろう? 一度お前のその綺麗な形の唇を食べてみたかったのだ。さぁ寄こせ!」  壁に抑えつけられたまま唇を奪われる。 「あっ……」  耐えねば!この位のこと、なんでもない。そう自分に言い聞かせるが全身に悪寒が走る。  くちゅくちゅ……  卑猥な音が密室に響く。顔を背けようとしても顎を押さえつけられ、そしてもう片方の手で首を押さえつけられる。冷たい氷のような手だ。  苦しい……生理的な苦しみと精神的な嫌悪感から、不覚にも涙が目じりに浮かんでくる。  くそっ!こんな奴。本気で抗いたい。それが出来ない状況なのが、もどかしく悔しい。 「ほぅ~やはり期待通り、お前は美味しいな。こちらの味はどうなんだ?」  首を押さえつけていた手が、そのまま下肢へと伸びてくる。 「やめっ! 」  やめろ。このままではまずい。身を捩り抵抗するが、キチの氷のような手は俺を執拗に追いかけてくる。  ジョウ……ジョウ!  心の中で呼ぶのは俺の想い人。早く俺を呼んでくれ!頼む!これ以上こんな男に触れられるのは御免だ。 「もう……おやめください。お戯れはこの辺でおやめに」  努めて冷静に言うが、キチは興奮しきっており、その手は下衣の中の素肌を辿り始めていた。  吐きそうだ! もう耐えられないっ! 「やめていいのか。それならすぐに王の部屋へ通せ」 「……」 「ふふふっ律儀な男だな。美しい近衛隊長さん、そんなに王様が大事か。今度の王はお前が抱くのか」 「くっ……失礼なことを! おやめください。不愉快です」 「ははっ!どこまでも気丈だな。それがまたいい。では私が、飼いならされたお前の躰がどこまで我慢できるか、試してやろうじゃないか」  一気にキチの冷たい手が忍び込み、直接腹を撫でられ、腰を滑るようにさすられると背筋が凍るような心地がして、冷汗が一筋流れた。  もう限界だ──  手が小刻みに震えるとともに指先から火花が散り出す。雷光を使えば逃れられるが、この男は王家の一族であるから、それは叶わぬ。だが、もうこのような目に遭うのは嫌だ。  ジョウだけにしか許さないはずだった。  清めてくれた俺の躰。  大切にしたい己の躰。  悔し涙が込み上げてくる。

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