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「最近さ〜、お客さん増えたよね?」 「そうだね。イケメン店員がいるって口コミで広がってるらしいよ」 「あらぁ、それって俺のこと?」 「君以外に誰がいるの」 「照れちゃうなあ〜」 心にも思っていないだろう台詞を抜かしながら、隣を歩く新人くんが照れた素振りを見せる。 今日も今日とて家まで送ってくれる新人くんは相変わらず高い身長と長い脚に、黄金比で作られた整った顔立ちで溢れるイケメン具合は霞むことを知らない。霞んでいるとしたら隣にいる俺の方だろう。 「テンチョ最近ちゃんと部屋の掃除してンの?」 「掃除?なんで?」 「だってこの前、部屋結構散らかってたから。超〜オシャレだったっスけど」 「この前…」 ってこの前のことしかない。俺が酔っ払って新人くんに連れて帰って貰った末に一夜の過ちを起こしてしまった、あの… つ、ついに来るのか!? セクハラで本社に訴えます、と! どちらから手を出したのかサッパリ分からないし覚えてないが、女に困ってない彼がこんな可愛くもないオッサンに手を出す筈がない。自分をオッサンなどと言うと30代のパートさんにものすごい怒られるからあまり言わないが、アラサーに足を突っ込んでる俺は彼からすれば立派なオッサンだろう。 となると俄かには信じられないが手を出したのは俺の方ということになり、イコール訴えられる、あるいはネタに揺すられるという構図が出来上がっていた。まずい。話を逸らさなければ。 「あっ、そういえば新人くん。今度期間限定で出すデザートの試作したやつがあるんだけど、食べて行かない?」 苦し紛れの話題転換に、新人くんは一瞬固まって足を止める。 「デザート…試作とかって、店で作ってるんじゃないんスか?」 「大抵はね。家にあるのは本格的な試作品じゃなくてこんなの美味しんじゃないかなーって思い付きのやつだから。初期号的な」 「……えーと」 「なんか用事あった?いっつも送って貰って悪いしお礼の意味も兼ねて…もちろん今日じゃなくてもいいんですけどね」 まあ別に頼んで送って貰ってるわけじゃないんだけど、他人の良心に文句をつけるのもあれなので黙っておく。 悩んでいる様子の新人くんがケホッと小さく咳をして、「行きます…」と小さい声が聞こえた。どうしたんだ、その声量。乗り気じゃないなら無理強いはしないのに。 「また作るし今日じゃなくてもいいんだよ?」 「行きまァ〜す」 ニヘラ、と無理に作ったような笑顔を浮かべた直後、すぐにサッとマフラーを鼻まで上げてしまった。限りなく挙動不審なんだが、大丈夫か?

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