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「………」 試作品を食べるというメインイベントが終わってしまうと、新人くんは何も喋らなくなった。最近では前より話が弾むようになったが、たまにこうして無言の時間が続く。 ただ以前と違うのはその場から立ち去らなくなったこと。何故かは知らないが。 「…テンチョ」 新人くんが目の前に座る俺を見る。珍しく固い表情をしているが、何を言うつもりなんだ。…まさか。 「この間のことだけど」 「っ、ごめん!」 「……え?」 もう話題逃れはできないと数秒で腹を括って机に額をぶつける形で頭を下げた。 今まで新人くんが言ってこないのをいい事に、このまま無かったことにならないかとずるい事を考えていたが、流石に無理そうだ。 「ほんと!全然覚えてないんだけど、手を出したんだよね?俺が。大変申し訳なく思ってます…」 「……」 「6歳も年下の子に俺はなんてことを…でも性病は持ってないから安心して!あと俺にできる事ならなんでもする。なのでできれば、できればでいいんだけど本社には…」 「本社ってなんの話ですか?」 「……本社に…セクハラで訴えるとか…?」 「………ああ」 低い声。下から様子を伺うように顔を少しだけ上に向けると、唇を真一文字に結んだ新人くんが見えた。 「…店長は、なんとも思ってない男とヤれるんですか?俺は酔っ払った男のセクハラに最後まで付き合えちゃうような軽い男?」 …まずい。失言だった。 様子を伺うように声を掛けると、新人くんの声に遮られた。 「店長言ったんです。俺と付き合うって」 「…………付き合う?」 どうにも脳にすんなり言葉が落ちてこない。 それに新人くんの異変も気になって仕方がなかった。いつもとキャラが180度ぐらい違う。そんなまともに語尾伸ばさず喋れたんだ?君、なんて疑問だらけの俺は両手を机の上に付けたまま、顔だけを新人くんに向けた。 「それって、どういう…」 「俺たち今、付き合ってるんですよ」 「またまたあ…!それは嘘…」 「嘘じゃない。こんな面白くもなんともない嘘付きません」 入り込む隙間も無く切り捨てられた。それはもうバッサリと。 「……で、でも俺も君もどっちも男だ。普通付き合うって言ったら…」 「普通ってなんですか。男同士で付き合ったら普通じゃないんですか。なら男同士のAVに出るのも普通じゃないことになりますよね」 「えーぶい?…AVって…………え!?」 新人くんが突然椅子から立ち上がりソファーに置いてあった鞄を探る。すぐに何かを手に持って俺の元へ戻って来ると椅子には座らず、俺の横に立つ。 パンッと薄い正方形のケースを机に叩きつけるように置いた。 「!」 これは… 唇が震えた。 これはいつぞやに新人君のロッカーで発見した俺出演のゲイビ。 わざわざ表を向けて置かれて慌てて手で覆い隠す。隠しても遅い事に気付けない程、動揺してしまっていた。

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