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「こ…れ…」 「店長言ってましたよ。男なんかで気持ち良くならないって。でも喘いでた。俺のでイッてくれた。後ろで気持ち良くなれるなんて普通なんですか?」 「待って、ください。君は何を…」 「俺からしたら全部普通だ!男同士で付き合うのも、セックスするのも、気持ち良くなっちゃう店長だって普通のことだよ…!」 グイッと腕を引かれて、体が強引に持ち上げられる。彼の腕は、俺の体をキツく、キツく抱き締めた。 「俺は店長の彼氏です…だからセクハラでなんて訴えない。訴えるわけ、ない」 「………あ、うん」 話がようやく見えてきた気がするのに、肝心なところまでよく見えない。とりあえず訴えないという言葉に胸を撫で下ろした。なのに聞こえてくる悲しそうな声に、安心で落ち着いた筈の胸がズキリと痛む。なんなんだろうこの気持ちは。訳がわからない。 「……ごめんなさい、大声出して。もう帰ります」 体が離れる。なんと声を掛けてやればいいのか分からず悩んでいる間に、新人くんは鞄を持って足早に玄関に向かっていた。 ソファーを見れば彼のマフラーが残っているのに気付いたが、俺が声を掛けるより先に玄関の扉が閉まる方が早かった。 そして、逃げるように去ってしまった新人くんの置き土産のDVDは、嫌でも状況を理解せざるを得ない。 だけど本当に俺が付き合うなんて言ったんだろうか。そもそも付き合う云々の前に、俺は男に興味なんて… 忘れ去られたマフラーを手に取った。香るのは新人くんがいつも身につけているフレグランス。センスのいいユニセックスな香りは、彼のイメージにピッタリだとも思ったっけ。 『店長…気持ち良さそう…』 あ、あ、そこ、駄目…! 『駄目…?やめますか?』 う……やめ、やめらんない…ぃ!腰っ、動く… 『…かわいい。もっと動いていいですよ。店長の好きなようにしていいから…いっぱい、いっぱい…しよ?』 「ッ…!?」 立ち上がった椅子にガタンと倒れるように座り込んだ。そのまま股間を抑える。…やばい。 突然浮かんだのは、濡れた瞳で恍惚とした表情で俺を見る新人くんだった。 入れ替わるように、悲しそうな顔をしていた彼の顔が脳裏を(よぎ)る。 ――普通ってなんですか 普通ってなんなんだろう。酔った勢いとはいえ彼とセックスできた俺は本当に男に興味ないと言えるのか。 そもそも何故新人君はあんなに怒ってたんだ。何故俺と付き合ってるということを強調してきた? セクハラではなく恋人関係だと、間違った行為ではないとでも言うように。 まるで自分に言い聞かせてるみたいだった。 彼が声を荒げた理由も、DVDを持っていた経緯も何一つ明確ではない。ただ一つ。 ただ一つ確かなことがあるとすれば、俺は彼を傷付けた。 それだけは間違いなかった。

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