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連絡先を渡そうとしていることに気付けば自分が率先して受け取り、あたかも自分宛てに貰ったかのように演じて店長に渡す。いつものことだから店長は疑わないし、見てる女性からしてもちゃんと店長の手に渡ったと安心する。
ただ連絡は来ない。一生。俺宛ての連絡先と一緒に可燃ゴミへと成れ果てる。罪悪感なんて微塵もなかった。
「最悪だよなァ…俺」
俺は店長のことを想っているようで、そういう意味では想ってない。姑息で嫉妬深くて、自分のことしか考えてないんだ。
頭痛がする。もうやめよう。不毛だよ。そもそも今更そんなことを考えたところで既に遅い。無断欠勤なんてして完全に俺への信用なんて無くなったに決まって――
ピンポーン
マイナス思考に陥ってグルグルと色々な事を考えていた俺の耳に突如、部屋のインターホンが鳴り響いた。
玄関は洗面台から近く音の大きさに驚いて涙が止まる。ぐしぐしと服の袖で目元を拭いた。誰だろう。宅配か?何かを頼んだ覚えはないけど…ああ、もしかして洗浄液?コンタクトの。最後にいつ届いたか覚えていないが、定期注文をしているから思い当たるのはそれくらいだった。
…面倒くさい。
今は判子を取りに行く元気もない。
居留守でやり過ごそうとしたが、来訪者はそれを許さなかった。
「おい!新人くん!いるよな!?いるなら開けろ!」
ドアを乱暴に叩く音に混じって、まさかの声に心臓が口から飛び出す程驚いた。
「な、なんで…店長?」
意味が分からない。それに店からここまで歩いても20分はかかる。どういうことだ?訳も分からないまま体は勝手に動いて玄関の鍵を開けていた。
ガチャ。
「て、んちょ…う」
「新人くん!うわ…ひどい顔だな。大丈夫か?…じゃなくて保険証!持っておいで」
「え?」
「下にタクシー待たせてるから。今すぐ病院行こう」
ーーー
視界の先に広がるのは見慣れた天井。今度はグルグル回らないし、落ちてくるような恐怖感もない。俺が落ち着くようにと電気は消されいて、外から差し込む夕日が室内を穏やかに照らしている。もう寒気は無かった。頭痛もない。病院で受けた点滴のお陰だと思う。
ただ、相変わらず体は鉛のように重くベッドに沈み込む感覚だけは残っていた。
「でも、良かったね。インフルエンザじゃなくて。病院で計ったとき39度超えてたから、終わったと思ったのに」
店長が笑いながらこちらへ歩いてくる。手には水滴のついた冷たそうなスポーツドリンク。
「終わったって…」
「ああ、ごめんごめん」
支えて貰いながらほんの少しだけ体を起こして、受け取ったスポーツドリンクを口にした。見事に味が分からない。だが口の中が潤って心地よかった。
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