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「新人くん」
「ん、はい…?」
「最近ずっと家まで送ってくれてただろ?もうしなくていいからね」
「!……、……はい」
店長がベッドに腰掛けてそんな事を言った。
明らかな拒絶。何もこんな時に言わなくても…と再び目頭が熱くなる。
どうにも熱が出ているときは涙腺が緩くなって困る。メンタルの弱さが涙へと直結しているみたいだ。
手元のスポーツドリンクに視線を落とし、掠れ声で返事をすれば店長が慌てたように手を振った。
「あれ!?あ、勘違いしてるよね?違うから!迷惑だったとかじゃなくて、君の風邪どう考えても毎日夜の寒い中を俺の家まで送って、そこからまた自分の家に帰るなんて事してたからでしょ。だから、そういう意味でしなくていいって言っただけで…!君と一緒に帰るの、結構楽しかったし…」
あまりにも必死にフォローをしてくれる店長に、ポカンと口が開く。
「なので……えーと……泣かないで…?」
様子を伺うように顔を覗いてくる店長が、困ったように微笑んだ。
「……、…き…」
「…ん?」
「…好き…です。店長」
気付けば口に出していた。頑なに我慢していた「好き」の二文字が音になる。それは好きな相手に今迄一度も口にしたことが無かった禁断の言葉だった。
この言葉は今迄の関係を容易に崩す事ができる。築いてきた関係がマイナスになる事を俺は一番恐れてきた。だから禁断の言葉。
でも、我慢できなかった。
店長を見れば、俺の告白に一瞬固まったかと思うと、愛しい白い肌があっという間に真っ赤に染まった。
「好っ…好きって、俺?…あの、それは一体どういう類 の…」
動揺して挙動不審な動きを見せる店長が心底可愛く思うのと同時に、過去に想像してきたマイナスな展開とは違う表情に僅かに期待感が芽生えた。
数時間前までは期待なんてしても意味ないと考えを改めたばかりなのに、込み上げてくる。間違ってもこれは吐き気じゃない。
忙 しなく動く手を捕まえた。潤んだままの瞳で見つめると、店長の動きが止まる。
「恋愛の意味で…好きなんです、店長のこと。店長が男、無理なの知ってるけど…好きなの止まらなくて……ゲイビ見つけたときめちゃくちゃ嬉しかった」
自分の今の体温が高過ぎるからか、俺より若干小さい手は少し冷たい。あるいは店長が冷え性なのか。どちらにしても触れ合う手のひらが気持ちよかった。
「利用してごめんなさい…好きになって…ごめんなさい…」
捕まえた手をぎゅう…と握り締めた。後になって思うがこの時の俺は風邪の所為でまだ脳が混乱していて、口にする言葉が脈絡のない話ばかり。
俺には意味が分かってもきっと店長には利用するとか好きになった事を謝った意味なんて到底理解できることなんて、できなかったと思う。
それなのに店長はただ謝る俺を深く問いただす事もせず、期待より不安で押し潰されそうな心ごと両手で抱き締めてくれた。
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