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店長の着ていた肌触りの良いコートが頬に触れる。着替えもせず上からコートだけを羽織って出てきたみたいで、よく見るとズボンは店の制服のままだ。 「……て、ん」 「確かに俺は男は管轄外だったよ。ゲイビに出たのなんて黒歴史だし、なんならあれは騙されて出たやつだから」 「……知ってます…」 言ったっけ?と俺を抱き締めたまま首を傾げる動きをする店長。それも覚えてないのか。この人の酒癖はこの人自身の首を締めるな。 「でも…」 「…?」 「でもおかしいんだよ。冷静になって考えてみたら、新人くんと…しちゃった事は、衝撃だったし立場的に後悔もした。でも不思議なことに嫌悪感は無かったんだ。断片的に思い出して恥ずかしくなることはあっても、気持ち悪いなんて思わなかった」 「………店、長」 この人は自分が何を言っているのか分かってるんだろうか。告白をした同性の俺に向かって言う、その意味を。 店長がどんな顔をしてその台詞を口にしたのか気になって、肩を掴んで体を離す。バリッと引き剥がした先にある顔は、先程と同じかそれ以上。耳まで真っ赤だった。 ――意味、分かってるんだ。 「真っ赤…」 「うるさいな…!」 「…俺、一目見た時から好きだって思いました。付き合いたいって。俺だけのものにしたいって…。こんなに好きになったの…店長が初めてなんです」 「…君が?モテ男の君が?……あああ駄目だ!さっきから驚いてばっかりだ。とりあえず君はもう寝なさい。俺も仕事戻らないといけないし」 店長がベッドから離れようと腰を浮かすが、俺はもう舞い上がってしまって離してなるものかとその体を捕まえる。点滴のお陰で数時間前より腕に力が入った。 「俺、店長の彼氏のままでいていい…?」 「…付き合ってる…てことになってるんだっけ?」 「うん」 「……俺は…男と付き合った事なんて無いし、この先どうなるかもわからない。やっぱり無理ってなるかもしれないぞ…ずるい事を言ってるのは理解してるけど、正直に言えば今の俺はそんな感じだよ?それでもいいのか?…というか、俺でいいのか?」 「ベタなこと、聞かないでください…俺は店長がいいんです。店長以外考えられない」 店長の赤い顔をもっともっと近くで見たくて顔を寄せる。 可愛い。本当に可愛い。イケメン店員がいるから人気になってるんじゃなくて、店長がいるからあの店は人気なんじゃないの?だとしたら嫉妬で狂う。店長を狙うなんて許さない。 「……でも、後から不安になるのは嫌だから今一つだけ、聞いてもいいですか?」 変なの。店長が正式に俺のになってくれそうだと分かった途端、周りへの顕示欲が強くなる。喉から手が出るほど欲しかった権利を貰える。この人に手を出す奴には、俺から牽制はもちろん制裁だってしてもいいんだ。そういう権利。店長とバイトではなり得ない。なんと甘美な関係か。 「俺の事、どれくらい想ってくれてますか…?」

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