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ちゅ、と頬にキスをした。今まで抑えてた反動か、風邪を引いて深く考えられないからか、ヘタレな俺にしては大胆な行動。本当は唇にしたいけど風邪を移したら大変だから、我慢。
俺からのキスに店長は僅かに驚いたようだったが、避ける事はせず視線を斜め下に向ける。
本当に嫌悪感は無いんだ。じゃあこれは恥ずかしいってこと?どれだけ俺をときめかせれば気が済むの?
そして、伏し目がちなまま店長の唇がゆっくりと動いた。
「……君の…死にそうな声を聞いたら居ても立っても居られなくて…俺、責任者なのに店を飛び出した。そのままタクシー捕まえて、部屋まで乗り込んじゃうくらいには…俺も君のこと、想ってる、と思う」
すごい説明口調。例え後に続く言葉が「だから、早く店に戻らせて」だったとしても俺は充分だ。
「…うれしい」
「!」
我慢が出来ずに店長の唇を塞いだ。薄い唇を割り開いて舌を入れる。さすがに店長も嫌がるだろうかと思ったが予想外にも俺から離れるようなことはしなかった。
「ふ、……」
くちゅ、とお互いの唾液が絡む音がする。あーあ、これで完全に店長に風邪が移った。俺の風邪。苦しませるのは可哀想だが、菌の共有って考えようによっては悪くない。
どうしよう、俺こんなにヤバイ奴だったっけ?
「しんじ、ん…く」
キスの合間に店長が声を上げる。ストップをかけられているのだと分かってはいたが、止まらない。もっと、もっとと求めて、唇を舐め上げ甘噛みをした。
「いかないで…」
「あっ」
店長が俺のキスに翻弄されているのをいいことに、服の隙間を縫って服の中へ手を忍ばせる。意図的に脇腹を撫でて背中の方に手を回すと、店長の口から甘い声が上がった。が、すぐに動きを止められた。
「ストッ…プストップ!新人くん…!」
「…今日は夜、確かベテランばっか入ってましたよね…?ホールも人数足りてたし…」
「それは…そうだけど…そういう問題じゃなくてな」
「店長…したい」
耳元へと唇を寄せて囁くと店長は目を見開いて驚いた。
「馬鹿!そんな体で無理に決まってるだろ!今は安静第一にしてなきゃ」
「無理じゃないよ…だってもう、こんななのに…」
店長の手を誘導して自分のテントを張る箇所を触らせると、店長はビクッと体を震わせた。
「……いや…でも…」
「てんちょは、嫌…?」
「嫌…というか……ああもう駄目ったら駄目!」
「………」
やっぱり駄目か。
店長は、仕事人間みたいなところあるから、ある程度こうなることは分かってはいたけど…怒られてしまった。しゅん、としてしまう。素直に腕を離すと、頭にポンと手を置かれた。
「…そんなに落ち込むなよ…、今日仕事終わったらここに帰ってくるから。君、病人だし」
「……うん」
…ねえ、聞いた?帰ってくる、だって。
まるで同棲してるみたい。同棲。いつかはしてみたかったんだ。店長と同棲。それはいい。最高だ。絶対に帰ってきて貰う為にはどうすればいいだろう。
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